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気候変動リスク対応を求める株主提案と企業・銀行の動き

2021/06/30

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気候変動リスクへの対応は中長期的な企業価値の向上に

29日にピークを迎えた株主総会では、気候変動リスクへの対応を中心に、中長期の経営に関わる株主提案が目に付いた。かつては目先の利益ばかりを追求する姿勢が強いとの批判も受けた物言う株主(アクティビスト)も、企業の持続的成長と中長期の株主の利益という観点から、株主提案をするようになってきている。

気候変動リスクへの対応に関する株主提案で、世界的に注目を浴びたのが、米石油大手のエクソンモービルだ。5月の同社の株主総会で、環境派が推す取締役候補が選任される波乱が起きた。エクソン株の0.02%を保有する物言う投資家(アクティビスト)のエンジンは、エクソンに環境対策の強化を迫った。そして取締役の刷新を求めて株主総会に4人の候補者を提案し、最終的に3人の取締役を送り込むことに成功したのである。少数株主も含め、多くの株主の支持を得た結果だ。

株主自身も、より中長期での企業価値、株主価値の向上をより重視するようになってきているためだ。気候変動リスクへの対応は、企業の社会的責任という観点のみならず、中長期的な企業価値、株主価値の向上に欠かせない、との意識が株主の間で強まっている。

企業が総会前に株主提案に対応

気候変動リスクへの対応を求める日本での株主提案で、特に注目を集めているのは、住友商事と三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)に対策強化に向けた定款変更を要求するものだ。6月18日に開かれた住友商事の株主総会では、環境非政府組織(NGO)のマーケット・フォースが、地球温暖化の国際的な枠組み「パリ協定」の目標に沿った事業計画の策定と開示に向けて定款変更を求めた。この株主提案は否決されたが、賛成率は約2割となった。

株主提案は否決されても、その影響力は株主総会以前に発揮されている、と言えるだろう。株主提案の取り下げを狙って、住友商事は5月に石炭火力発電からの撤退計画などを打ち出した。この時点で、企業側の対応は強化されており、株主提案は影響力を持ったことになる。そもそも、会社の重要なルールである定款の変更には出席した株主の議決権の3分の2以上にあたる賛成が必要となり、かなりハードルが高い。定款変更よりも企業側の自主的な取り組み強化を引き出す点に、株主提案の最大の意義があるのではないか。

29日に株主総会を開く三菱UFJフィナンシャル・グループにも、環境団体からパリ協定の目標に沿った投融資を行うことを定款に盛り込むことを求める提案が出た。NPOの気候ネットワーク(京都市)や非政府組織(NGO)の350.orgの日本支部代表などが、「パリ協定の目標に沿った投融資を行うための指標と短期、中期および長期の目標を含む経営戦略を記載した計画を決定し、年次報告書にて開示する」という条項を定款に定めるよう求める株主提案をしている。

銀行の気候変動リスクへの対応が加速

この株主提案を受けて同社は5 月 17 日に具体的な取り組み方針を「MUFG カーボンニュートラル宣言」として公表している。この宣言では、国連環境計画金融イニシアチブ(UNEP FI)が今年 4 月に発足させた「Net-Zero Banking Alliance(NZBA)」に日本より初めて参加することで、カーボンニュートラルに向けた2030年までの達成目標を2022年度中に策定して開示することにも既にコミットしている。同社は定款の変更には反対だが、株主提案で言及されている内容の経営戦略への組入れは既に実現している、と説明している。

昨年のみずほフィナンシャルグループの株主総会では、気候変動に関する株主提案への賛成率が34%に上り、注目を集めた。6月23日に開かれた同社の今年の株主総会でも、経営陣への質問は気候変動問題に集中した。

3メガバンクはいずれも火力発電所への投融資方針を厳格化しており、この春にはいずれももう一段基準を引き締めている。これまでは「原則実施しない」としていた三井住友FGは、石炭火力への投融資を全面的に停止することを決め、3行の中で最も厳格な方針とした。MUFGは石炭火力の新規案件に加え、新たに既存施設の拡張にも投融資しない方針を打ち出している。みずほFGの新たな環境方針では、2040年度に石炭火力への投融資残高をゼロにするとし、目標実現の時期を以前から10年前倒した。

対話を通じて日本に適合した気候変動対策を模索

2050年カーボンニュートラルが世界の標準になるなか、グローバル投資家は一律の基準、目線で大手企業に気候変動、地球温暖化対策を求める傾向が強い。しかし、目標は共有しても、それを達成するための手段、道筋は各国に任されるべきだ。そしてより現実的な形で、経済の持続的成長とCO₂の排出量削減を実現するための最適の選択を模索する必要がある。そうした取り組みに資金面から大きな影響を与える銀行の気候変動、地球温暖化対策については、日本の実情に適合した最適の方策を、海外を含めた投資家と銀行とが日々の対話の中で選び取っていく姿勢が重要だろう。

(参考資料)
「気候対策、株主が圧力 定時総会 環境NGO提案次々 住商などに定款変更要求」、2021年6月25日、産経新聞
「「これで終わりではない」エクソン総会、0.02%の衝撃-新常態の株主総会(1)」、2021年6月29日、日本経済新聞電子版
「特集――投資家、企業に脱炭素迫る、株主総会、三菱UFJ・住商に要求、環境団体「具体的な計画を」(カーボンゼロ)」2021年6月29日、日本経済新聞
「深層断面/「石炭火力」削減加速 代替エネ転換支援、不可欠」、2021年6月28日、日刊工業新聞Newsウェーブ21

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