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2030年には太陽光発電は原子力発電よりも割安になるか

2021/07/14

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太陽光の本格的な「主力電源」化を後押しする試算内容に

経済産業省の資源エネルギー調査会、発電コスト検証ワーキンググループは、7月12日に原子力、太陽光、風力、石炭、液化天然ガス(LNG)など15種類の電源ごとに、2030年の発電コストを試算した。試算は2015年以来、6年振りのこととなる。その結果は、今夏に発表が見込まれるエネルギー基本計画に反映される。

今回の試算で最も注目されるのは、2030年時点で、太陽光発電のコストが原子力発電のコストを初めて下回る結果となったことだ。2030年に新たな発電設備を更地に建設・運転する場合のkWh当たりのコストは、太陽光発電(事業用)で8円台前半~11円台後半となった。

他方で、原子力発電では11円台後半~とされている。上限は明示されていない。原子力発電のコストは、試算のたびに引き上げられてきた。福島の事故を受けて、廃炉や除染の費用、そして安全対策費の増加を反映させてきたからだ。経済産業省は、原発のコスト面での優位性をいままで強調してきたが、その前提が揺らぐことになった。

太陽光発電のコストは2030年時点では15の電源の中で最も低コストになる。これは、太陽光の本格的な「主力電源」化を後押しするものだ。太陽光発電のコストが大幅に低下すれば、FIT(固定価格買取制度)のもとで消費者が負担するコストが低下していく。負担増加を懸念する消費者に配慮した試算、という印象もある。

太陽光発電のコストはもっと高い可能性

さらに、太陽光発電のコストが急速に低下していけば、採算面から企業は太陽光発電を拡大させるため、企業に大きな負担となる炭素税などカーボンプライシング導入の必要性がその分低下する。経済産業省は企業負担の増加を懸念してカーボンプライシング(CP)導入には慎重であり、積極的な立場をとる環境省と対立している(コラム「カーボンプライシング(CP)導入による脱炭素化で成長は維持されるか」、2021年6月23日。

ただし、この試算は、2030年時点に発電設備を新設した場合のコストの試算であり、既存の設備の利用を続けた場合には、石炭火力発電のコストの方が低い可能性もあるだろう。

ブルームバーグNEFによると、新設の太陽光発電所の発電コストが、現在ある既設の石炭火力発電所の発電コストを下回る時期は、2040年代後半になるという(コラム「脱炭素化に向け日本では政策面での強力な支援がより重要に」、2021年5月26日)。この点を踏まえると、太陽光発電など再生可能エネルギーによる発電を推進し、2030年度にCO₂排出量を46%削減するという政府目標を達成するためには、カーボンプライシング(CP)の導入など、政府による強い措置が必要になるのではないか。

2030年までに太陽光発電のコストが大きく低下する試算は、発電量が増えるに従って平均コストが低下する(習熟曲線)こと、技術革新が進むこと、が前提とされているが、いずれも不確実性が高い。また、太陽光発電設備を設置する場所を平地に見出すことは次第に難しくなっている中、山間部で土地を確保すれば、造成費や遠く離れた送電網につなぐ費用などの追加のコストがかかる。これも試算には含まれていないのである。

「電源構成」の政治判断に調整余地を残す

さらに、天気や時間によって発電量が変わる再生可能エネルギーの発電割合が高まれば、電力の需給バランスが崩れて停電のリスクが生じる。常に発電量と使用量を一致させて停電を回避するには、火力発電で補うなど、送電網全体で変動を吸収することが必要となる。変動を送電網全体で吸収するためのコストのことを「系統安定化費用」というが、今回の試算にはこれが含まれていない。

経済産業省は総発電量に占める各電源の割合を示した「電源構成」を近く策定する予定だ。その際には、この系統安定化費用を取り入れた試算を示す方針だ。そこでは、太陽光発電のコストはさらに高まる可能性が高い。

他方、原発の発電コスト試算については、原発の40年稼働が前提となっているが、法律の例外規定に基づいて多くは60年まで延長される可能性が高まっている。その場合には、原発の発電コストは低下する。

今回の試算では2030年時点で、太陽光発電のコストが原子力発電のコストを初めて下回る結果となったが、この先の政治決着を睨みつつ、なお調整の余地を残した形となっている。

(参考資料)
経済産業省、総合資源エネルギー調査会、発電コスト検証ワーキンググループ(第7回会合)
「30年時点の太陽光発電費、原発より安く、経産省試算。」、2021年7月13日、日本経済新聞
「発電コスト最安、原子力→太陽光 経産省試算」、2021年7月13日、朝日新聞
「再考エネルギー:政府、割高でも原発延命 再生エネ 発電コスト減」、2021年7月13日、毎日新聞

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