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世界的な株価大幅下落:過去の経験則が通用しない不確実性の高い経済・金融見通し

2021/07/20

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米国金融緩和の行き過ぎと前例のない不確実性が背景に

19日の米国市場で、ダウ平均株価は今年最大の下落幅を記録した。同日の欧州市場でも、大幅な株価の下落が見られている。変異ウイルスの拡大によって、世界経済の再開が妨げられる、との懸念が背景にあるとされる。ただしそれはきっかけに過ぎす、事態はもっと複雑なのではないか。金融緩和の行き過ぎとコロナ後の世界経済・金融市場の前例のない不確実性が底流にあるのだろう。

株価のみならず、住宅価格やビットコインなど、幅広い資産で昨年来価格急騰が見られた。米連邦準備制度理事会(FRB)による行き過ぎた金融緩和が、それをもたらした面があるだろう。足もとでの資産価格の不安定な動きは、その反動ではないか。

さらに、世界経済、金融市場には、過去の景気の回復期には見られない、強い不確実性がある。これも、資産価格の変動を激しくしている要因だ。米国を中心に足もとで生じている物価高騰は、コロナショックによる経済の短期的な混乱(ディスラプション)の一端と筆者は考える。しかし、FRBの中では対応は分かれており、地区連銀総裁の間では早期の金融緩和の正常化を主張する声がにわかに高まった。他方、パウエル議長は比較的ハト派の姿勢を維持しており、FRB内でのスタンスは大きく分かれている。このことが、金融市場では、先行きの金融政策見通しの不確実性の高まりにつながっているのだろう。

各国で金融緩和姿勢はばらばら

さらに、金融当局のスタンスの違いは、世界的にも見られる。FRBは金融政策の正常化を意識し始める一方、欧州中央銀行(ECB)は緩和の継続をアピールしている。日本銀行の政策姿勢は当面変化しそうもない。

先週はニュージーランド中銀が資産買い入れの停止を決める一方、中国では、人民銀行が預金準備率の引き下げという金融緩和的な措置を実施しているなど、まさに多様というか、やや異常である。当然ながら、その背景には国毎による経済のばらつきが極めて大きいことがある。

ワクチン接種が早めに進んだ国と遅れた国との間で、経済の回復に差が出ていることもあるが、景気回復で最も先行した中国では、リベンジ消費の一巡が予想外の成長鈍化を生じさせている(コラム「中国の経済動向と金融政策は世界の先行きを示唆しているか」、2021年7月20日)。

世界経済を一つの景気局面で判断することはできない

従来の景気回復の局面では、米国経済が回復を主導し、他国はそれに遅れながらも同調していくという姿であった。そこでは、各国の経済情勢、そして金融政策の見通しについて、比較的不確実性は低い。

しかし今回は、感染問題という非経済的な要素が強く働いていることから、世界経済を一つの景気局面で判断することはできない状況だ。景気回復で先行している米国が、変異ウイルスの影響で突然、景気の再調整に追い込まれるといったリスクも常にある。

さらに、各国間での経済情勢の差は、金融政策の差をもたらし、それは各国間での資金フローをより不安定にさせるはずだ。

日本は不確実性とリスクの塊か

こうした中、日本経済、日本の金融市場の先行きは、とりわけ不確実性が高い。19日の欧米での株価大幅下落は、ドル安円高を引き起こしている。いわゆるリスクオフ相場である。そのもとでは、米国株との連動が強い日本株には、米国株安の影響と、円高の悪影響の双方が重なり、株価下落がより増幅されやすい。

さらに東京では、オリンピック開催を目前に新規感染者数が急増し、4回目の緊急事態宣言が発令されている。足もとでは関係者の間で新規感染が広がる中、オリンピック開催が感染拡大リスクを高めるとの懸念も拭えない。こうした中、景気回復の糸口はなかなかつかめない状況である。

世界経済・金融情勢は、コロナ問題によって過去の経験則が通用しない、不確実性が極めて強いまさに未知の領域に入ってきた。そうした中、日本はその代表格であり、海外から見ても不確実性とリスクの塊、との見方が高まってきているのではないか。

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