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新たな電源構成の目標数字は固まるも、実現可能性は見えてこない

2021/07/21

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太陽光発電への依存度を高める

政府は7月21日に、エネルギー基本計画の改定原案を公表する予定だ。そこでは、2030年度時点の新たな電源構成や各電源の発電コストなどが示される。それは、8月中にも閣議決定される見通しだ。

原案で最も注目を集めるのは、2030年度の新たな電源構成であるが、報道を通じてその概要は以前より明らかになっている。政府は、総発電量に占める再生可能エネルギーの比率を「36~38%」とする方向だ。2015年に決めた現在のエネルギー基本計画の電源構成では、再生可能エネルギーの比率は「22~24%」であることから、大幅な引き上げとなる。さらに、2018年度で同比率は18%であったことから、現状から急激な引き上げだ。

再生可能エネルギーによる発電の中で、水力はもはや規模を拡大させる余裕に乏しい。政府が力を入れている洋上風力発電については、建設や、地元漁協などとの調整、環境影響評価(環境アセスメント)といった手続きなどにかなり時間がかかる。そのため、今から取り掛かっても、2030年度までに期待できる発電能力は限られるだろう。そこで勢い、望みの綱は建設期間が短い太陽光発電となる。

太陽光パネル設置のコストが高まっていく可能性も

7月12日に経済産業省は、原子力、太陽光、風力、石炭、液化天然ガス(LNG)など15種類の電源ごとに、2030年の発電コストを試算したが、2030年時点で、新設の太陽光発電のコストが新設の原子力発電のコストを初めて下回る結果となった(コラム「2030年には太陽光発電は原子力発電よりも割安になるか」、2021年7月14日)。これは、太陽光発電を「主力電源」化するという新たなエネルギー基本計画の方向性を先取りしたかのようだ。

しかし、新設ではなく既存の発電設備を利用し続けることによって、2030年度時点で太陽光発電のコストを下回る発電手段は他に多く残ることになるだろう。従って、コストが下がる結果、2030年までに太陽光発電への企業の投資が自然と増えていき、再生可能エネルギーの比率を「36~38%」まで一気に押し上げると考えることはできない。さらに、太陽光パネルを設置する適地は確実に少なくなっている。そうした中で太陽光パネルの設置を進めれば、山地などの利用を拡大させる必要が高まり、そのコストが限界的にかなり高まる可能性もあるだろう。

国土交通省は当初、新築住宅への太陽光発電用のパネル設置の義務化も目指したが、建築費の増加などへの国民の強い反発が予想されることから見送られたという。

カーボンプライシングへの言及も避けるか

再生可能エネルギーによる発電の比率を大幅に引き上げるには、カーボンプライシングなど強力な政策の導入が必要となる。しかしそれは、負担増になることから産業界からの反発は強い。従って、エネルギー基本計画は、それを明示的に前提にするものとはならないだろう。

他方、技術進歩で再生可能エネルギーによる発電のコストが十分に低下しない中で、再生可能エネルギーによる発電が急速に拡大すれば、それは固定価格買取制度(FIT)のもとで個人の電力料金に上乗せされていく。

こうした企業や個人からの批判を受けやすい課題をあいまいなままにしたまま、再生可能エネルギーの電源構成比率を数字合わせのように大幅に引き上げているようにも見える。これは、問題先送りの対応ともいえるのではないか。

欧州は再生可能エネルギーの比率を2030年に65%にまで引き上げる

ところで、欧州委員会は14日に、電源構成に占める再生可能エネルギーの比率を、現状の約33%(2018年)から、2030年に65%にまで引き上げる目標を打ち出した。足もとでの比率は既に日本の2倍近くであるが、それを2030年にはさらに2倍近くにまで引き上げる方針だ。

2050年カーボンニュートラル、2030年にはCO₂排出量を50%近くまで削減と、目標自体は日本と欧州との間で大きな違いはない。しかし、再生可能エネルギーの利用では、欧州は既に日本の何歩も先を行っているのである。さらに、欧州は自動車の排ガス規制では、2030年のCO₂排出量を2021年比で55%減まで絞り、2035年にはハイブリッド車も含めてガソリン車の新車販売を事実上禁止する方針だ。これについても、日本は簡単には追随できない。

欧州委員会は同時に、輸入品を対象にする「炭素国境調整措置」の導入方針も示している。鉄やアルミニウム、肥料、セメント、電力の5分野がまず対象になるという。これについては、他国から批判が高まることは避けられないだろう(コラム「EUの国境炭素税導入は世界のCO₂排出量削減を促すか」、2021年7月7日)。

原発でも問題は先送り

問題先送りと言えば、再生可能エネルギーによる発電とともに原子力による発電についても、同様の対応となりそうだ。従来から予想されてきたように、2030年の電力発電における原発の比率は、「20~22%」で、現状を維持する方向だ。

東日本大震災が起こる9か月前の2010年6月には、政府は原発の依存度を2030年までに約5割へと倍増する基本計画をつくっていた。しかし、震災を受けて2015年のエネルギー基本計画では、2030年に20~22%とする目標が作られ、それが今回も維持されるのである。しかしこの目標は、現状の延長線上では決して達成できるものではない。

目標達成には、電力会社が稼働を申請している27基すべての運転が前提となる。しかし現状で稼働しているのは10基しかない。震災から10年以上が経過してなおこの水準である。稼働再開にはさらなる安全対策が求められる。そして、再稼働に向けては地域住民等国民の反対も根強い。

2030年を超えても、2割程度の原発の比率を維持するためには、原子力発電所の稼働年数を40年に限り、一回限り60年に延長できる、という現在の法律の規定を見直す必要がある。あるいは、原発のリプレース(建て替え)や新設を実施する必要が生じる。

しかし今回のエネルギー基本計画の改定原案では、こうした記述は入らない見通しだ。原子力発電所の稼働年数の延長は、安全性の観点から否定的な意見が国民の間に強い可能性がある。あるいは、原発のリプレース(建て替え)やより安全に配慮した小型原発の新設についても同様だろう。

衆院選挙を前にして政府は、国民がセンシティブなこうした選択肢への言及を避けた、との見方も多くなされている。

最終的な着地点は見えない

菅政権は昨年、2050年度カーボンニュートラルを掲げ、今年4月には2030年度にCO₂排出量を46%削減するという目標を掲げた。今や、2050年カーボンニュートラル、2030年CO₂排出量5割程度削減が、先進国の必須課題となった感が強い。そうしたもと、菅政権がやや見切り発車的にそうした目標を掲げざるを得なかった事情は理解できる。今回のエネルギー基本計画、電源構成は、今年11月のCOP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)に向けて、そうした国際公約を数字に落とし込む作業に他ならない。

しかし、目標達成のための施策を後付けで積み上げていっても、なかなか目標には達成できないことは明らかだろう。数字合わせのように、電源構成などの数字は作ってはみても、目標達成のための実行可能性の高い計画を打ち出すことは難しいのである。

他国と比べても、再生可能エネルギーによる発電が日本は大きく後れをとっており、しかもそのコストは非常に高い。さらに、当初50%程度の電源構成を見込んでいた原発は、2011年の震災によって、その利用を拡大することが難しくなってしまった。

このように、日本は、CO₂排出量の削減において、他国と比べて格段に大きなハンディを負っていることは疑いがない。こうした中、国際協調姿勢を維持しながら、果たしてどのような着地点を目指すのか。最終的な日本の針路は、まだ完全に視界不良の状況である。

(参考資料)
「EU、再エネ電源65%目標 2030年、現在から倍増」、2021年7月16日、朝日新聞
「再生エネの電源比率 2030年度に36~38%程度へ」、2021年7月19日、朝日新聞速報ニュース
「エネ計画「新増設」盛らず、原発政策、漂流続く。」、2021年7月19日、日経産業新聞
「再エネ普及 高い目標 エネルギー計画原案 原子力 信頼回復も必要」、2021年7月17日、東京読売新聞
「エネルギー基本計画 太陽光「30年に倍増」難題 財源や建設能力に限界」、2021年7月17日、東京読売新聞

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