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FRBと各国中銀が頭を悩ませる住宅価格の高騰

2021/07/28

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行き過ぎた住宅価格上昇は金融システム不安のリスクに

米国を中心として各国では、コロナショック後の需要の急回復などを映して、物価上昇率の顕著な上振れが見られている。コロナ問題による経済への悪影響が残る中でのこうした物価上昇率の上振れは、経済の安定と物価の安定のどちらを重視するかという観点から、中央銀行の金融政策運営を難しくさせている。それに加えて住宅価格の高騰も、各国中央銀行にとっては頭の痛い問題となっている。

米連邦準備制度理事会(FRB)は7月27・28日に金融政策を決める米連邦公開市場委員会(FOMC)を開き、資産買い入れの減額(テーパリング)についての議論を本格化させる。そこでも、住宅価格の高騰について議論されるだろう。

日本のバブル期に当時の日本銀行は、不動産価格の高騰は金融政策で対応するものではない、との認識であり、結果的にバブル生成を見逃してしまった。行き過ぎた不動産価格がひとたび下落に転じると、それは深刻な銀行の不良債権問題を生み、平成銀行危機へとつながったのである。また、行き過ぎた住宅価格の下落が銀行危機を生じさせたのは、リーマンショックの時の米国での経験でもある。こうした経験を踏まえると、各国中央銀行が住宅価格の高騰を警戒するのは当然のことだ。

住宅価格高騰は家賃上昇を通じて物価上昇率の上振れを長期化も

米国の5月の住宅価格(中央値)は前年同月比+24%上昇した。これは数10年ぶりの高い上昇率であり、リーマンショック前の水準を既に大きく上回っている。

この住宅価格の高騰が、金融緩和が行き過ぎていることを裏付ける証拠であれば、金融緩和の正常化がすぐにも必要となる。しかし実際には、供給が追い付かないことによる木材価格の高騰や人件費上昇の影響もあるだろう。それらは一時的現象である可能性の方が高いことから、住宅価格高騰への金融政策対応は実際には難しい。

他方、住宅価格の上昇が続けば、それは消費者物価の中で高い構成比を持つ家賃(帰属家賃を含む)の上昇につながる可能性がある。理論的には、家賃の変化が住宅価格を変動させるのだが、実際には、住宅価格の上昇を受けて、家賃を引き上げる動きが生じる。

足もとでの物価上昇率の上振れは一時的要素によるところが大きいが、住宅価格の高騰が家賃に転嫁されれば、物価上昇率の上振れが長期化するとの見方も中央銀行の中にはある。

世界の中央銀行に広がる住宅価格高騰への警戒

ニュージーランド中央銀行は7月14日に、新型コロナウイルスによる経済混乱を受けて導入した国債買い入れについて、23日までに追加購入を停止すると発表した。住宅価格の高騰がその決定の理由の一つである。

ノルウェー中銀も住宅価格の高騰に警戒を強めており、9月にも金融政策の正常化策を打ち出すとの見方が強まっている。それ以外にも、イングランド銀行(BOE)や韓国中央銀行など、住宅価格の高騰に警戒を強める中央銀行が増えている。

ウォールストリート紙によると、2005年から2021年5月までの不動産価格の累積上昇率は、ノルウェーでは136%、ドイツは101.6%、英国では54.4%、米国は38.7%に達している。

浮上する2段階テーパリング論

さて、FRB内では、住宅価格の高騰を警戒してMBS(住宅モーゲージ担保証券)の買い入れ減額を先行的に実施すべきとの意見が出ている。現在FRBは、月に国債800億ドル、MBSを400億ドルのペースで資産の買い入れを行っている。

ダラス地区連銀のロバート・カプラン総裁はMBS購入について、「これらの購入には、意図せぬ結果や副作用があり、その発生をわれわれは目の当たりにしている」と述べている。セントルイス地区連銀のジェームズ・ブラード総裁は、「住宅市場が活況を呈し、一部の人によれば住宅バブルの脅威さえあるとされる中で、MBSに手を出す必要はないのではないかという考えに少し傾いている」と述べている。

また、ボストン地区連銀のエリック・ローゼングレン総裁は5月に、FRB当局者はMBS の買い入れ減額を先行させる2段階のテーパリングを考慮すべきだと示唆した。そのうえで、「MBS市場は今、恐らくそれほど多くの支援を必要としていない」と述べたのである。

テーパリング議論が本格化へ

7月27・28日のFOMCでは、住宅価格の高騰を受けて、こうしたメンバーの中からMBSの買い入れ減額を先行的に実施すべきとの、2段階テーパリングを主張する声が出てくる可能性は高い。ただし、それが採用される可能性は必ずしも高いとは言えないのではないか。

MBSの買入れは、国債利回りと住宅ローンの金利に影響を与えるMBS利回りのスプレッドを縮小させる。ただし、MBS利回りの絶対水準は、国債利回りによって決まる部分が大きく、それは国債買入れによって影響を受ける。

つまり、金利低下を通じて住宅価格上昇を促しているのは、MBSの買入れだけでなく、国債の買入れについても同様なのである。こうした構図の下で、MBSの買入れ減額を先行させるのは、住宅価格高騰への対応としては必ずしも適切とは言えないだろう。

FRBのテーパリングは、いずれ国債とMBSで同時に行われる可能性が高いのではないか。7月27・28日のFOMCでテーパリングの実施を決定することはないだろうが、それに向けた議論が前進する可能性は相応にある。その場合、8月のジャクソンホール会合などでそれについて言及され、早ければ今年12月にもテーパリングが実施されることになるのではないか。

(参考資料)
"The New Test for Central Bankers’ Cool: Booming House Prices", Wall Street Journal, June 21, 2021
"Fed Officials Debate Scaling Back Mortgage-Bond Purchases at Faster Clip", Wall Street Journal, June 29, 2021

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