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コロナ禍が生んだ住宅バブルの崩壊を世界は回避できるか

2021/08/04

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コロナ禍が引き起こした世界的な住宅価格の高騰

世界各地で住宅価格の異例な高騰が続いている。その背景に新型コロナウイルス問題があることは疑いがないところだ。要因を整理してみると、第1に、コロナ対策で積極的な金融緩和が実施された影響である。低金利環境や資金借り入れのしやすい環境は、実需の住宅購入を促す。また、住宅への投資の期待収益が調達コストと比べて高まることも、借り入れを伴う形で住宅投資への需要を高める(コラム「FRBと各国中銀が頭を悩ませる住宅価格の高騰」、2021年7月28日)。

第2に、コロナ禍のもとでの巣籠りの長期化や、リモートワークの広がりによって、都市部で働く人は郊外での広い居住スペースを求めるようになった。これは、大都市のオフィス価格には下落圧力となる一方、大都市の周縁部、周辺部あるいは地方の住宅価格には上昇圧力となっている。

第3に、急速な需要回復を受けた供給不足によって、住宅建設の人件費上昇や、木材、鉄、銅などの原材料価格の上昇が、住宅価格を押し上げている。

住宅価格が下落したのは40か国中3か国のみ

経済協力開発機構(OECD)のデータによると、40か国中で今年1-3月期に住宅価格が下落した国は、わずか3か国しかなかった。その比率は、2000年に集計を始めて以来最も低い比率だ。そして先進国の住宅価格は、1-3月期に前年同期比+9.4%の上昇となった。リーマンショック前のピークの+7%台を既に大きく上回り、30年来の水準にまで達している。

4-6月期以降も上昇率が高まる傾向は続いている。その先頭を走るのは米国だ。5月のS&Pコアロジック・ケース・シラー住宅価格指数(主要20都市)は前年比17%上昇し、16年9か月ぶりの大幅なプラスとなった。

オーストラリアのシドニーでは、新型コロナウイルス対策でロックダウン(都市封鎖)が導入されたが、住宅の値上がりが続いている。7月の住宅価格(コアロジック調べ)は、前年同月比では16.1%上昇と、2004年以降で最大の上昇を記録している。在宅勤務への移行で戸建て住宅への需要が高まりその価格は18.4%値上がりした。

日本では、日本不動産研究所が発表した5月の不動研住宅価格指数によると、首都圏総合の既存マンション価格は前年比で8.02%上昇した。

中国では住宅価格抑制策の効果が出始める

他方、中国は年初から住宅価格の高騰を抑える政策が進められており、その効果が見られ始めている。中国の民間不動産調査大手チャイナ・インデックス・アカデミー(中国指数研究院)によると、7月の国内100都市の新築住宅価格は前年同月比では3.81%上昇した。6月は3.89%の上昇だった。わずかではあるが、5か月ぶりの鈍化となった。政府は、住宅関連の借り入れ抑制や住宅価格の上限設定などの施策を進めてきている。

中国の各地方政府も不動産引き締めを強化している。湖北省の武漢市政府は7月27日に、市内の一部エリアについて、「チケット配布制」を導入するガイドラインの草案を明らかにしている。この草案によると、規制対象エリアで住宅を購入する際、住民はまず当局に申請を行い、条件を満たすものだけに「房票」が発給される形だ。

住宅価格の高騰は、短期的には住宅保有者に資産効果を生じさせ、個人消費を押し上げるという経済へのプラスの効果をもたらす。しかし、価格上昇自体は、いずれ需要の減退へとつながり、マイナスの経済効果に転じるのである。

また、住宅価格の高騰は、庶民のマイホーム実現を妨げるなど、社会的な問題も引き起こす。シドニーでは、住宅の資産価値の1か月の増加分は、収入の1年間の増加分を上回っており、多くの人にとって住宅は手の届かないものになりつつある、との指摘がある。

住宅価格下落による経済・金融への打撃を注視

さらに、日本のバブル後や米国のリーマンショック後のように、住宅価格の下落は銀行の不良債権問題を引き起こし、経済に大きな打撃を与えることになる。

そこで、住宅価格の行き過ぎを抑えるため、ニュージーランド中銀のように、予防的に金融緩和の正常化を前倒しで進める中央銀行も出てきた。リーマンショックの経験を生かして、金融政策運営でより住宅価格を重視する傾向が見られるのである。

ニュージーランド中銀では、住宅価格の安定をその使命(マンデート)に加えた。また欧州中央銀行(ECB)は欧州連合(EU)の統計部署に対して、住宅価格を消費者物価に加えることを要請している。

このように、中央銀行が住宅価格を重視する傾向があることが、リーマンショックの再来を回避させる、との指摘もある。しかし、コロナ禍やその後の経済情勢については、過去の経験則が成り立たない面が多く、金融政策が先手を打って適切な対応ができるかどうかはなお不確実である。

住宅価格の高騰は、既にかなり行き過ぎた可能性もあり、それが経済や金融に大きな問題を起こさずに収束していくのかどうか、なお予断を許さない情勢だ。

(参考資料)
"Sign of housing fever surface as global property pricing surge", Financial Times, August 2nd ,2021
「豪住宅価格、シドニーの都市封鎖でも上昇続く」、2021年8月2日、ロイター通信
「不動研、既存マンションの価格上昇続く」、2021年8月2日、日刊不動産経済通信
「中国100都市の新築住宅価格、5カ月ぶりに伸び鈍化=民間調査」、2021年8月1日、ロイター通信ニュース
「中国:武漢が住宅購入「チケット制」導入へ、有効期限60日 中国」、2021年7月30日、亜州リサーチ 中国株ニュース

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