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IPCCが示す地球温暖化の加速と高まる人類への脅威

2021/08/11

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人間が地球温暖化をもたらしたことは疑う余地がない

国連の気候変動に関する政府間パネル、IPCCが評価報告書を公表した。最新の論文などをもとにして、地球温暖化の1)科学的な根拠、2)自然環境や社会への影響、3)対策、について数年ごとに報告書を作っている。今回は6回目で、このうち1)の科学的根拠の報告書がまず示された。

IPCCは、1988年に世界気象機関と国連環境計画によって設立された国際的な組織で、気候変動について科学的な知見を評価する。2013~2014年にIPCCが公表した前回の第5次報告書は、2015年の「パリ協定」の採択へとつながった。今回の報告書は、今年10月末から始まる第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)に大きな影響を与える見通しだ。

地球温暖化対策に否定的な向きは、地球温暖化ガスと世界の気温との関係、気温と気候変動、自然災害との関係についての科学的根拠の曖昧さを指摘する。しかし今回の報告書では、1750年頃からの大気中の二酸化炭素など温室効果ガス濃度上昇は、化石燃料の大量消費などの人間活動が原因であるとし、人間が大気や海洋、陸域を温暖化させていると強く結論付けている。IPCCの報告書は、世界中の膨大な論文に基づく、最先端の科学的知見を集めたものだ。

温暖化の原因が人間の温室効果ガス排出によるものかどうかについて、前回の報告書では、95%以上の確信度を表す「可能性が極めて高い」との表現だった。しかし今回は、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と断言している。

また、温暖化によって異常気象の発生頻度も高まり、暑さや降水量などその度合いも強まっている、台風など熱帯低気圧は過去40年でより大型の比率が高まっており、台風などに伴う降水量も温暖化で増加している、と結論付けている。

地球温暖化がもたらす悪影響は、異常気象による洪水、熱波、山火事などの自然災害だけにとどまらない。永久凍土が溶けて地中のガスや細菌が放出されるリスクもある。温度上昇によって農業や建設業の活動には支障が生じ、作業効率が落ちることも考えられる。まさに、人類に対する大きな脅威だ。

気温上昇ペースは加速

同報告書によれば、足元までの気温上昇も、従来の計測値よりも実際には大きいことが分かったという。世界の平均気温は1970年以降、過去2000年間で経験したことのない速度で上昇している。2010~2019年の気温は、人間活動によって1850~1900年の平均より1.07度程度引き上げられたという。

温暖化対策の国際的枠組みである「パリ協定」では、産業革命前と比べて世界の気温上昇を1.5度以内に抑えるのを努力目標として定めている。だが、IPCCの今回の報告書によると、2021~40年には同水準に達してしまうと予測されている。2018年時点での想定より10年ほど早くなった。

さらに報告書では、「2050年ごろに二酸化炭素と他の温暖化ガス排出量を大幅に削減してネットゼロにしない限り、21世紀中に1.5度と2度の両方を超える」と明記した。また、その前段階として30年時点で10年比45%の削減も必要と指摘している。

新興国と二酸化炭素排出量削減の目標を共有できるか

報告書では、今後について、二酸化炭素など温室効果ガスの排出量に応じた5つのシナリオを想定している。気温上昇の幅は、どのケースでも2021~2040年に1.5度の上昇幅に達する。対策を講じないケースでは2081~2100年に上昇幅は実に4.4度にまで達し、地球上で熱波などの頻度が高まるとした。一方、世界全体で2050年頃にカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量の実質ゼロ)を達成するケースでは、今世紀中頃から気温の上昇幅は縮小していくと予測した。

先進各国は、2050年カーボンニュートラル、2030年に二酸化炭素排出量を50%程度削減の双方を既に掲げている。そのため、今回のIPCCの報告書を受けて、二酸化炭素排出量の削減をさらに加速させる計画を示す必要性はないだろう。ただし目標は掲げても、その実効可能性については十分に検証されていない面がある。COP26に向けて、各国ともに具体策をより詰めることが求められる。

他方、中国が2060年カーボンニュートラル達成を掲げるなど、新興国の間では2050年カーボンニュートラル、2030年二酸化炭素排出量50%削減の目標は共有されていない。新興国は、二酸化炭素排出量削減について、一律の目標ではなく、先進国と新興国との間で差を設けるべき、との考えを支持している。産業革命以降、先進国は大量の二酸化炭素を排出しつつ成長を遂げてきたことから、その分、今後の排出量の削減では新興国よりも先進国が高い目標を持つべき、との主張である。

新興国が2050年カーボンニュートラルの目標を共有しない下で、産業革命前と比べて世界の気温上昇を1.5度以内に抑えるというパリ協定の目標を達成するためには、先進国は今の計画以上に二酸化炭素排出量の削減を加速させる必要が出てくる。計画の大きな練り直しが求められるのである。

COP26に向けては、二酸化炭素排出量の削減について、先進国から新興国への支援を一層強化することを条件に、2050年カーボンニュートラルの目標を新興国も受け入れ、世界全体の統一目標にできるかどうかが、大きな注目点となるのではないか。

(参考資料)
"Climate Change 2021: The Physical Science Basis", IPCC
「気温1.5度上昇、リスク切迫 IPCC「50年排出ゼロ必須」」、2021年8月10日、日本経済新聞電子版
「気温1.5度上昇、10年早く、IPCC報告「21~40年に」、パリ協定達成難しく。」、2021年8月10日、日本経済新聞
「クローズアップ:IPCC報告書「20年で1.5度上昇」 温暖化、異常気象に拍車」、2021年8月10日、毎日新聞
「20年以内、1.5度に上昇 対策した場合も IPCC報告書」、2021年8月10日、朝日新聞

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