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中国規制・統制強化の5か年計画と中国投資プレミアム

2021/08/19

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中国「規制・統制強化の5か年計画」

中国政府による産業・企業への規制強化は、とどまることなく進められている(コラム「中国企業への統制拡大でチャイナリスクが急浮上」、2021年7月29日、「中国、米国双方の規制強化で進むマネー・デカップリングと高まるチャイナリスク」、2021年8月5日)。それが、一時的な政策変更によるものではなく、中国政府が腰を据えて経済活動の再構築を図り始めたことが、次第に明らかになってきている。その底流にあるのは、共産党による統制強化と体制の安定維持、そして米国への対抗であろう。

中国国務院は11日に発表した声明で、経済の広範な分野を規制する取り組みについて、今後5年間、深く継続して進めていく考えを示した。いわば「規制・統制強化の5か年計画」である。「国を統治する上で極めて必要になる」法的枠組みを改善するために、国家安全保障や技術革新、独占禁止を含む分野での法整備に「積極的」に取り組む、と表明している。さらに、より良い生活を希求し続ける国民の要求を満たすために、近代的な規制環境を作り上げるとも説明している。

この声明は具体的な施策を詳細に説明するものではないが、規制・統制強化の取り組みが、非常に幅広く、また時間をかけて行うという当局の意思を伝える役割を果たしている。

声明では、IT部門と教育部門で規制強化が必要であるとしているが、これについては既に実施されていることであり意外感はない。そのうえで、国民生活を改善させる観点からは、独占を取り締まる競争政策が必要であることを謳っている。これも、アント・グループやアリババグループなどに対して既に行われていることだ。

また声明は、デジタル経済、インターネット金融、人工知能(AI)、ビッグデータとクラウドコンピューティングといった分野で法的枠組みの点検に取り組むようにも求めている。

中国投資のポートフォリオ入れ替えは奏功するか

今回の声明は、中国企業の株式に投資している海外投資家を、一段と不安に陥れている。IT、教育関連以外でも、足元では電子たばこ、化学、成長ホルモン、酒造といった銘柄が売り込まれている。またある国営紙がオンラインゲームを「精神的アヘン」と批判すると、規則が導入されたわけでもないにもかかわらず、ゲーム関連株が売りを浴びる展開になった。投資家は当局の次の一手を睨んで、戦々恐々としているのである。

しかし、海外投資家の資金が主導して、良いパフォーマンスを上げている銘柄もある。例えば、中国のクリーンエネルギー、電気自動車、半導体などの銘柄は上昇している。中国政府は、地球温暖化対策に前向きに取り組む姿勢を明らかにしている。共産党は7月30日に開催した中央政治局会議で、「中国は新エネルギー車の開発を加速させるべきだ」との考えを示し、同セクターへの支援を改めて表明した。他方で、半導体は米国と対抗して、内製化を一気に進めつつある。

つまり、政府が成長を後押ししようとしている分野であれば、突然規制が強化され、株主の利益が損なわれるリスクは相対的に低いと考え、そうした分野にポートフォリオを入れ替える動きが海外投資家の間にある。

しかし中国政府が重視する分野であれば、海外株主の利益が十分に尊重されるのかどうかは確かではない。中国では、再び先進国とは異なる方向で、産業・企業を再構築し始めているように見える。資本の論理も通用しなくなっていくかもしれない。

当局に、海外からの資金が中国経済の成長、国家統制、国民の生活向上に欠かせない、という強い意識がない限り、今後も突然の規制・統制強化によって、海外投資家の利益が損なわれるリスクは何度も出てくるだろう。海外投資家は、中国投資に対して規制・統制プレミアムを明示的に要求する時期に来ているのではないか。

(参考資料)
"China unveils five-year plan to assert control", Financial Times, August 13, 2021
"China Signals Regulatory Crackdown Will Deepen in Long Push", Bloomberg, August 12, 2021
「焦点:中国に習近平氏の規制強化の嵐、「容赦ない実行」に懸念」、2021年8月13日、ロイター通信
「中国肝いりの産業へ動くマネー、統制強化で加速」、ウォール・ストリート・ジャーナル日本版、2021年8月12日

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