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アフガン情勢を受けたテロリスクの高まりと世界経済

2021/08/24

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内外から強い批判を浴びるバイデン大統領のアフガン政策

米軍の撤退方針を受けアフガン政府が一気に事実上崩壊したことで、バイデン大統領は、内外からの強い批判を浴びている。20年間アフガンに介入したうえで、結局、民主主義国家を根付かせることができなかったのである。イラクも似たような状況だ。

また、アフガンの国民に大きな混乱をもたらしていることについても、世界から批判されている。他方、米国内では、アフガン政府の早期崩壊を予想できなかったことから、多くの米国民が依然としてアフガンに取り残されていることを問題視している。さらに、米国民の税金で投入された巨額の兵器が、タリバンの手に渡り、それが世界的なテロ活動にも用いられる可能性があることも、大いに問題とされている。

アフガンを制圧したイスラム主義勢力のタリバンは、政府軍が放棄した兵器の接収に迅速に動いた。米国で製造された大量の武器や軍用機、装甲車をタリバンは手にしているのである。

アフガンが再びテロの温床となる懸念

米政府監査院(GAO)の2017年の報告書によると、米国は2003~2016年の間にアフガン政府軍や警察に対して、小型兵器およそ60万個、車両7万6000台、航空機208機を提供したという。また米軍主導の連合軍による最新四半期報告書によると、その期間にハンビー(高機動多用途装輪車両)174台、銃弾およそ300万発、直径2.75インチのロケット弾10万発近くが提供されたという。米国はまたアフガン政府軍に対して、対戦車ミサイル(ATM)、自動擲(てき)弾発射器、迫撃砲、携行式ロケット弾(RPG)も提供している。政府監査組織によると、米政府は過去20年間にアフガン政府軍に対して合計で800億ドル(約8兆8,000億円)以上の資金を投じている。

かつてイラクでは、米軍がイラク軍に提供した武器が過激派組織「イスラム国(IS)」の手に渡り、その奪還、破壊に米軍が腐心したことと同様のことが起こりつつある。国連の報告書は、タリバンと国際テロ組織「アルカイダ」との関係は依然として続いていると指摘している。米軍の武器がアルカイダの手に渡り、国際テロ活動などに利用されることが懸念されるところだ。

20年をかけた米国によるアフガンでの民主主義国家の成立は失敗に終わりつつあるが、この間、アフガンがテロリストにとって安全な隠れ場とはならなかったことは確かだ。しかし今後は、アフガンが再びイスラム過激派の「温床」、グローバルなテロの温床となることが懸念される。

グローバルテロ指数でアフガンは世界で2年連続第1位

経済平和研究所(IEP)は、毎年11月にグローバルテロ指数(GLOBAL TERRORISM INDEX)という報告書を公表している。2020年に公表された同報告書によると、2019年のテロのリスクを示す指数は、アフガンは世界で2年連続第1位となった。第2位はイラクだ。2004年から2017年まではイラクがずっと第1位を続けていた。そして第3位は、ナイジェリアである。ちなみに先進国では米国が第29位、英国が第30位、日本は第79位となっている。

さらに、同報告書では、世界のテロによる経済損失額が推定されている。2000年には100億ドル(2019年固定価格、野村総合研究所の推定を含む。以下同様)であったが、2001年には846億ドルまで一気に増加した(図表)。同年に発生した同時多発テロの影響である。

経済損失額は2003年までは減少したものの、その後は増加傾向が続き、2007年には457億ドルに達した。増加の主な原因はイラク戦争だ。2012年以降に再び大きく損失額が増えたのは、過激派組織イスラム国(IS)の台頭によるものである。ISが国家樹立を宣言した2014年には、最も多い1,158億ドルにまで達した。

(図表)テロによる経済損失額

テロと経済活動の間の相関関係に注目

ところで、テロと経済活動の間には(逆)相関関係が見られる。経済が悪化して生活への不安が高まると、治安が悪化しテロのリスクが高まる。他方、テロ活動が盛んになれば、安全性への不安から経済活動は停滞しやすくなるだろう。

そこで、回帰分析を用いて上記のテロによる経済損失額と世界の実質GDP成長率(IMF・国際通貨基金)との関係を検討してみよう。アフガン情勢の悪化を受けて、2019年の経済損失額が、仮に同時多発テロが発生した2001年の水準まで上昇する場合、それに対応して世界の成長率は0.53%低下する計算となる。また、イラク戦争が勃発した2007年の水準まで上昇する場合、世界の成長率は0.18%低下する。ISが国家樹立を宣言した2014年の水準まで上昇する場合、世界の成長率は0.82%も低下する。

テロによる経済損失額と世界の実質GDP成長率は相互に影響を及ぼし合っていることから、上記の計算結果が、「テロ活動の活発化が世界の成長率をどの程度押し下げるかを示している」とまで結論付けるのは正しくない。それでも、今後の世界経済を展望するうえで一定程度は参考にはなるだろう。

経済平和研究所(IEP)は、コロナ問題による経済活動の悪化は、テロのリスクを高める、と指摘する。それが、経済活動にさらなる悪影響を及ぼすことで、悪循環へと発展する可能性もあるだろう。日本を含め多くの国で経済が停滞を続ける中で、感染への不安にテロへの不安が仮に重なってくれば、それは、消費者心理の停滞を長引かせ、経済の回復を一段と遅らせることになるだろう。

(参考資料)
“Global Terrorism Index 2020”, IEP(https://reliefweb.int/report/world/global-terrorism-index-2020-measuring-impact-terrorism
「「過激派の温床」再び懸念 アフガン情勢、記者が読み解く」、2021年8月23日、朝日新聞
「タリバンが米兵器を大量接収、懸念高まる」、2021年8月23日、ウォール・ストリート・ジャーナル日本版

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