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通貨危機に直面するアフガニスタンと活気づく仮想通貨市場

2021/08/26

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アフガニスタンは国際流動性危機に直面

米国などが支援してきたアフガニスタン政府が事実上崩壊してから、10日程度が経過しているが、政治情勢のみならず経済・金融情勢の混乱が日々強まっている状況だ。アフガニスタンの経済は、海外からの支援によって成り立っていたが、政府の崩壊とともにその支援が一気に止まってしまったのである。

アフガニスタン中央銀行トップのアフマディ氏は8月15日に海外に逃れたが、そこからツイッターでアフガニスタンの情勢を伝えている。彼によると中央銀行の保有資産は約90億ドルあった。そのうち米連邦準備制度理事会(FRB)に保有する米国債や金などのアフガニスタンの資産約70億ドルを、米国政府は凍結したのである。

また国際通貨基金(IMF)は、今月23日にアフガニスタンに3億7,000万ドルを送金する予定だったが、これを撤回した。アフガニスタンでタリバンが樹立する政府を承認するのか、国際社会で明確になっていないことが理由と、IMFは説明している。

また23日にIMFは、総額6,500億ドル(約71兆円)規模の「特別引き出し権(SDR)」の新規配分を実施した。しかし、そこには当初予定されていたアフガニスタンへの配分はなかった。

アフガニスタンは2020年に58億ドルの輸入超過の状況にある。外貨が調達できなければ、貿易決済は行き詰まる。必要なドルは、数週間ごとに輸送機で米国などから現金で運び入れていたという。これが停止し、さらにIMFなどからの支援がなくなると、アフガニスタンは対外債務の返済不能、いわゆるデフォルトのリスクに直面することになる。アフガニスタンを掌握したタリバンにとって、国際流動性危機への対応は喫緊の課題となる。

一方、国際流動性危機への対応を支援することを条件に、米国などは、タリバンに人権に配慮した政権作りをするように、圧力をかけることも可能となるだろう。

物価高騰と銀行の閉店が国民生活を圧迫

経済の悪化、財政危機、国際流動性危機に加えて、上記のような背景のもとでの深刻なドル不足が、アフガニスタンの通貨アフガニの対ドルレートの急落をもたらしている。それは、ドル建てで輸入される財の価格の急騰を通じて、国民生活を強く圧迫し始めている。生活に欠かせない小麦粉、食料油、コメの価格もわずか数日間で10-20%も上昇しているという。

さらに、多くの銀行が閉まっていることで、人々が必要な現金を自身の預金から引き出すことができないないことも、生活を悪化させていると報じられている。治安の悪化を受けて、銀行が閉店している面もあるのだろう。

他方で、中央銀行が民間銀行に配る現金がなくなったため、銀行が閉店に追い込まれている、との報道もなされている。中央銀行は自国通貨を無制限に発行できる。混乱で紙幣の印刷ができない状況でないのだとすれば、不足している現金とはドル紙幣なのではないか。自国通貨アフガニの信用力が低いアフガニスタンでは「ドル化」が進んでおり、ドルでの支払いが広く行われ、人々はドル預金を多く保有しているのかもしれない。

自国通貨アフガニの価値が急落するなかで、人々はドル保有のニーズを一層強めているだろう。ドルを持って出国を考える国民も少なくないだろう。しかし、銀行の閉店によってドル預金を引き起こすことができなければ、それは国民の間で大きなフラストレーションを生んでいるはずだ。国際送金サービス、ウエスタン・ユニオンの事務所も閉じたため、海外からの送金も途絶えたという。

ビットコイン急騰の背景にアフガ二スタン情勢

自国通貨アフガニの価値が急落する一方、今まで流通していたドルの供給が停止するこうした状況は、実は暗号資産(仮想通貨)の利用が広がりやすい環境である。

価格変動が激しい暗号資産は、自国通貨の価値が安定している国では支払い手段としては使われにくい。他方、自国通貨の価値が不安定な国では、外貨、特にドルが支払い手段や蓄財の手段として利用される。これが「ドル化」である。そのドルさえ手に入らなくなったのがアフガニスタンだ。そこでは、暗号資産が広く利用される条件が整っていると言える。暗号資産の価格変動が大きいが、それ以上に対ドルなどでの自国通貨の価格変動が大きい場合には、人々は暗号資産を持ち、それで支払いをすることを選択するだろう。

アフガ二スタン情勢の急変と並行して、暗号資産ビットコインの価格が急騰している。地政学リスクの上昇から、資金の逃避先としてビットコインが選好されている可能性がまず考えられるところだ。

しかし、それだけではなく、通貨危機に見舞われているアフガニスタンで今後、ビットコインの利用が広まり、それが世界のビットコイン需要を高めるとの期待を反映している面もあるのではないか。実際、Googleトレンドでは、アフガニスタンで暗号資産やビットコインへの関心が過去最高レベルにまで上昇したという。

一部の専門メディアはタリバンが暗号資産の起業家を歓迎する意向と伝え、またビットコインなどの暗号資産で寄付を受け入れるNPO(非営利団体)が登場しており、一部の市民の間では暗号資産で蓄財する動きも既にあるという。今後、アフガニスタンが暗号資産の実験場になるとの見方も出てきている。

アフガニスタン情勢を受けて、世界の人々はテロリスクの懸念を高めている(コラム「アフガン情勢を受けたテロリスクの高まりと世界経済」、2021年8月24日)。また、アフガニスタン国民にとっては、経済の混乱や、人権の侵害、あるいは生命の危機などに直面しており、極めて深刻な状況にある。

しかしながら、暗号資産ファンは、今年5月に急落した価格が持ち直すきっかけとなる、絶好の機会をアフガニスタン情勢が与えてくれることを強く期待しているのかもしれない。

(参考資料)
"MF suspends Afghanistan's access to funds", BBC News, August 19, 2021
「アフガン、経済混乱 閉まった銀行、物価は急騰」、2021年8月24日、朝日新聞
「アフガン、援助頼みの経済混迷、IMF、送金中止、米、資産凍結。」、2021年8月21日、日本経済新聞
「最大の71兆円配分=アフガン向けは停止―IMF途上国支援」、2021年8月23日、時事通信ニュース
「アフガン、仮想通貨の実験場に?(Up&Dpwn)」、2021年8月21日、日本経済新聞

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