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パウエル議長再任の可能性高まる

2021/08/31

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パウエル議長、ブレイナード副議長の組み合わせか

金融市場では、来年2月に任期満了となる米連邦準備制度理事会(FRB)パウエル議長が再任されるかどうかに注目が集まっている。金融政策手腕で概して評価が高いパウエル氏が再任されれば、金融市場は好感し、金融市場にとっての不確実性は低下しよう。バイデン大統領が議長を指名するのは9月6日のレーバーデー前後とみられている。その後、上院での承認が必要となる。

ここにきて、パウエル議長再任の可能性が高まってきている。8月21日にブルームバーグは、「イエレン財務長官がパウエル議長の再任を支持する考えをホワイトハウスに伝えた」と報じた。前議長であるイエレン財務長官の意見は、バイデン大統領の議長選任の判断に、影響力を持つだろう。

また8月27日にブルームバーグ、大統領のアドバイザーらは、パウエル議長の再任とブレイナード理事を銀行担当の副議長に起用することを提言する方針、と伝えている。金融規制担当の副議長は現在ランダル・クオールズ氏が務めているが、10月には4年の任期が切れる。

以下で見るように、これはパウエル議長の再任に難色を示す民主党急進左派を納得させる妥協策であり、現時点でのメインシナリオではないか。

民主党急進左派がパウエル議長の再任に難色

共和党系のパウエル議長は、2011年にオバマ元大統領に理事に起用され、2017年にトランプ前大統領から議長に指名された。そのため、もともと超党派の支持を得やすい。共和党内では、パウエル議長再任でほぼ異論はないようだ。

米上院共和党のスティーブ・デインズ議員は19日に、バイデン大統領宛の書簡で、パウエル議長を再任するよう求めた。デインズ議員は「この繊細な時期にFRB議長を交代させれば、金融システム全体の不確実性が増し、米国の景気回復が損なわれる恐れがある」と指摘している。FRB議長の任命は先ず上院銀行委員会で採決されるが、デインズ議員はその上院銀行委員会のメンバーである。

ところが、上院銀行委員長を務める民主党のシェロッド・ブラウン議員はパウエル議長の再任に難色を示す。そして、パウエル議長の再任に最も強く反対しているのは、民主党急進左派のウォーレン氏である。彼女は、女性のブレイナード理事の議長指名を支持しているとみられる。

パウエル議長の政策手腕では、コロナショックを受けた積極的な金融緩和が評価されている。金融市場の歪みを生み出した可能性もあることから、将来的に評価は変わる可能性はあるが、現時点では概して高評価だ。

また、コロナショックの前には、ドル安誘導も狙ったトランプ前大統領の緩和要請にパウエル議長が抵抗した点を評価する民主党議員も少なくないだろう。

問題視されるのはFRBの金融規制

他方、パウエル議長が昨年打ち出した新たな金融政策方針は、物価上昇率の上振れを容認するものだが、実際には足元の物価上昇率の上振れを受けて、米連邦公開市場委員会(FOMC)の参加者は早期の政策金利引き上げの見通しに傾いてきている。このように打ち出したばかりの政策方針が定着していないのは、パウエル議長のリーダーシップの欠如の表れでもあり問題と思われるが、金融市場や議会でこの点を問題視する声は少ない。

他方、ウォーレン氏らが問題としているのは、前政権下では、FRBが金融規制の緩和を進めた点だ。また民主党急進左派は、パウエル議長は、気候変動や金融規制への対応が足りないと批判している。

ブレイナード理事のハト派姿勢を市場は懸念する可能性

パウエル議長の後任として最も有力とされてきたのが、ブレイナード理事だ。彼女は年初に財務長官候補ともされていたが、最終的にはイエレン前FRB議長が財務長官に指名された。その際に、ブレイナード理事は次期FRB議長候補としてFRB内に温存された、との指摘もあった。

パウエル議長はFOMCの中では現在、緩和重視のハト派的とされるが、ブレイナード理事はパウエル議長よりもさらにハト派だ。最近では、ブレイナード理事は中銀デジタル通貨(CBDC)の発行により前向きの姿勢を見せ、パウエル議長との違いをアピールしている。

足もとでの物価上昇率の上振れを、FRBは一時的現象と判断している。しかし、金融市場では、FRBが物価上昇率の定着を見逃してしまうことを懸念する向きもある。金融市場の観測は短期間で変わり得るが、現状そのような懸念があるなかでは、パウエル議長よりもさらにハト派のブレイナード女史の議長指名を好感しないかもしれない。パウエル議長の再任、ブレイナード副議長の布陣であれば、金融市場はベストシナリオと受け止めるのではないか。

(参考資料)
「割れるインフレ議論、着地点探るパウエル議長」、2021年8月24日、ウォール・ストリート・ジャーナル日本版
「FRB議長再任を米財務長官が支持」、2021年8月23日、産経新聞
「【焦点】パウエルFRB議長再任に暗雲、民主左派の難色で(1)」、2021年8月11日、ダウ・ジョーンズ米国企業ニュース
「米共和党議員、パウエルFRB議長再任を呼び掛け 大統領に書簡」、2021年8月19日、ロイター通信ニュース

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