コロナ対策『岸田4本柱』の政策構想
岸田氏がコロナ対策中心の政策構想を示す
9月29日に投開票される自民党総裁選は、菅首相と岸田前政調会長との一騎打ちの様相を強めている。こうしたなか岸田氏は、コロナ対策を中心とする政策構想を2日に打ち出した。
他方で菅首相は、次期衆院選をにらんだ追加経済対策の早期策定に向けた作業を、前倒しで進め始めている。本来は衆院選で国民にアピールするための施策であったが、その構想を前倒しすることで、自民党総裁選挙での党内からの支持獲得を狙う。
岸田氏はコロナ対策を最も重視しており、今回、コロナ対策「岸田4本柱」を打ち出した。その4本柱は、医療難民ゼロ、ステイホーム可能な経済対策、電子ワクチン接種証明(ワクチンパスポート)活用・検査の無料化拡充、感染症有事対応の抜本的強化である。また、常に最悪を想定した危機管理を行うという原則を表明し、公衆衛生上の危機発生時に国・地方を通じた強い指揮権限を有する「健康危機管理庁」を設置するとした。
それ以外に、予約不要な無料PCR検査所の拡大、野戦病院のような臨時の医療施設の開設を打ち出した。また、業種を特定しない持続化給付金、家賃給付金の再支給に取り組み、数十兆円規模の経済対策を実施する考えを示している。
首相としてのあるべき姿勢についても、「国民の協力を得る納得感のある説明をしていく。『たぶん良くなるだろう』ではなく、常に最悪の事態を想定して危機管理を行う」と強調した。
注目されるコロナ対策の具体策
以上の岸田氏のコロナ対策は、国民の間では好意的に受け止められる可能性があるだろう。自民党内でもそうかもしれない。多くの国民が、「政府の対応で大いに問題あり」と考えているテーマを多く抽出し、新たな方策を示したものとなっている。
実際に政策を行うよりも、その問題点を指摘したうえで、多くの国民に支持されやすい代替策を打ち出すことはより容易である点には留意する必要がある。挑戦者の方が有利になりやすいのである。岸田氏の政策も、その実効性などは今後慎重に検証される必要があるだろう。
それでも、予約不要な無料PCR検査所の拡大、野戦病院のような臨時の医療施設の開設、電子ワクチン接種証明(ワクチンパスポート)活用・検査の無料化拡充、感染症有事対応の抜本的強化などは、いずれも納得感があり、大いに賛成したいところだ(コラム「世界に広がるワクチン接種義務・条件化の動きと日本のワクチン証明活用の遅れ」、2021年8月18日)。
また、現政権のもとでは、緊急事態宣を多く発令し、時短・休業要請などを通じて企業活動を強く制約しつつも、それに対する補償は限られており、多くの企業が支援を受けられない状況にある。支給対象が飲食業などに限られる現在の協力金制度よりも、岸田氏が主張する業種を限らない以前の持続化給付金、家賃給付金を復活させた方が、より望ましいと考えられる。
財政規律に配慮した政策運営か
やや気になるのは、金額は特定していないものの数十兆円の大規模な経済対策の実施を岸田氏が掲げている点だ。野党から、そして自民党内からも30兆円規模の対策を求める声が高まっている。自民党総裁選あるいは衆院選挙で、経済対策の規模の大きさを競い合うようなことはぜひ避けて欲しい。
コロナ対策を中心に、必要な支出は確保すべきであるが、昨年度予算から今年度予算へのコロナ対策関連の繰越金が、30兆円超も計上されている(コラム「30兆円超となった21年度予算への巨額の繰越金と追加経済対策」、2021年8月3日)。予算は計上したが、執行が進んでいないのである。必要な政策であれば、その執行をより迅速に進めることを優先させるべきだ。また、繰越金の中でも妥当でない予算が計上されていないか、再度検証すべきだろう。この先、コロナ対策を見直す場合には、この繰越金を含む予算を組み直し、いたずらに財政環境を悪化させないように配慮して欲しい。
経済政策について岸田氏は、現在は非常時であり、財政出動や金融緩和を「しっかり進める、続ける」と発言した。党内若手の意見にも配慮して、金融・財政政策について、従来よりもやや積極性を強調した可能性がある。
ただし、財政については「しっかり考えているという方向性を示し、国際的な信用性を維持する努力が必要」と語っている。この点から、基本的には財政規律に配慮した政策運営を行う考えであるとも読める。そうであれば評価したい。
今回岸田氏は、コロナ対策でかなり具体的な施策を打ち出した。自民党総裁選に向けては、経済対策全般についても、より踏み込んだ議論が展開されていくことを期待したいところだ。