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ECBはPEPPのテーパリングを始めるか

2021/09/07

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にわかに注目が高まるECBの次回政策理事会

欧州中央銀行(ECB)は、9月9日に開く次回の政策理事会で、コロナ危機に対応して導入したPEPP(パンデミック緊急購入プログラム)のもとでの資産買い入れペースを低下させる、テーパリングに着手するべきかどうかの議論を行う。テーパリングが決定される可能性は、今のところ五分五分というところではないか。

少し前までは現状維持で無風とみられていた次回政策理事会が、にわかに注目され始めたきっかけの第1は、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が、先月末のジャクソンホール会合で、年内のテーパリング開始の考えを明言したことだ。

ECBがFRBに対してテーパリングを先行させる場合には、政策姿勢の差や長期金利差の変化への観測からユーロ高が進む可能性が高まる。それはデルタ株の逆風を受け始めたユーロ圏経済に打撃となることが懸念される。しかし、FRBが年内にテーパリングを実施するとの見方が市場のコンセンサスとなった現状では、その可能性はやや低下する。

さらに、物価上昇率の上振れなどを受け、足元でPEPPのテーパリングを支持する発言が加盟国の中銀総裁らから相次いだことが、第2のきっかけである。ユーロ圏の8月の消費者物価指数は前年同月比3%上昇した。ECBの物価目標である2%を大幅に上回り、約10年ぶりの水準に達したのである。これに対してオランダ中銀のクノット総裁は、「コロナがインフレに及ぼすダメージを抑制するというPEPPの目的はほぼ達成された」との考えを示している。

またビルロワドガロー仏中央銀行総裁はPEPPの購入ペースに関して、「資金調達環境の改善を考慮すべきだ」と発言している。これは、資金調達環境が改善していることから、PEPPで資産を大幅に買い入れる必要性は低下している、との認識を示したものではないか。

PEPPのテーパリングは危機対応措置の解除に向けた動き

ECBはPEPPを少なくとも来年3月まで続けると約束している。現状では、PEPPは来年3月に打ち切られる可能性が高まっている。その場合、突然買入れが打ち切られれば市場への影響が出ることから、徐々に買入れ額を減らしていくテーパリングが実施される可能性が高い。さらに、今年3月以降、PEPPのもとでの資産買い入れを「著しく速いペース」で行うとの文言が加えられた。これは、米国での長期金利が一時大幅に上昇し、ユーロ圏の長期金利もそれに引き摺られて上昇した際に、その上昇を抑えるために講じられたものだ。しかしその後、米国の長期金利は落ち着きを取り戻していることから、その分だけでも、買入れ額を縮小させることが正当化される。それを買入れゼロに向けた段階的削減であるテーパリングにつなげる合わせ技の実施も考えられるところだ。

そもそもPEPPは、通常の資産買い入れ策と別枠で導入された、コロナショックに対する危機対応策である。それが打ち切られることが、本格的な金融政策の正常化を意味する訳ではない。

この点から、次回の理事会でなくても、年内にPEPPのテーパリングが実施される可能性は高い。来年3月にPEPPを打ち切り、その前に激変緩和のためにテーパリングを実施するのであれば、年明けからではやや遅いのではないか。仮に今回の理事会でテーパリングが決定されない場合は、デルタ株の拡大が経済に与える影響をもう少し見ようとの姿勢が広く支持される時だろう。

FRBのテーパリング示唆が、ECBのPEPPのテーパリングを後押しする要因の一つになると考えられるが、結果的にFRBよりもECBの方が早くテーパリングを実施することになれば、多少ながらも金融市場にサプライズとなるのではないか。足もとで進む対ドルでのユーロ高に弾みがつく可能性もあるだろう。

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