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ワクチン接種証明の電子化と国内利用拡大のメリット

2021/09/08

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海外で利用が広がるワクチン接種証明の利用

日本経済新聞によると、政府はワクチン接種証明を12月から電子化する方針を固めた。スマートフォンの専用アプリでQRコードを表示し、接種の情報を読み取れる仕組みとなりそうだ。また、証明書の申請もオンラインで完結させるようにする。

海外渡航用のワクチン接種証明は、7月下旬から全国の市区町村で申請受け付けが始められた。しかし、それは紙ベースに限られている。海外では電子化が進んでおり、この点で日本の遅れが際立っていた。遅きに失した感は否めないものの、より利用に便利な電子ワクチン接種証明が発行されることは歓迎したい。

次の焦点はワクチン接種証明の国内利用である。政府は差別問題を生むことを警戒して、ワクチン接種証明の国内利用に慎重な姿勢を維持している。それが、ワクチン接種証明の電子化が遅れた理由なのではないか。

フランスでは8月に、ワクチン接種証明書の活用を拡大した。政府は病院、高齢者施設への入場、航空機、長距離鉄道の利用、飲食店入店、イベント参加の際に、証明書の提示を義務づけ、違反者には罰金を科すことにした。

ドイツでも、感染拡大地域では、レストランへの入店や屋内イベントへの参加の際に、ワクチン証明書や陰性証明の提示を義務化する方針を決めた。英国も、飲食店の経営者やイベント主催者らに客の証明書をチェックすることを勧奨している。米国のニューヨーク市は、8月初旬にレストランやバーなどの屋内施設で、ワクチン接種証明の提示を義務付けると発表した。

ワクチン接種証明の国内利用への支持が高まる

ワクチン接種の進展とともに、ワクチン接種証明の国内利用も民間主導で徐々に広がってきている。飲食店では、ワクチン接種者に割引を提供し、店員がワクチン接種したことを名札で示すなどの動きが広がってきた。また、野球観戦で、ワクチン接種証明を入場の条件にする動きも出てきた。

こうした内外の事例を踏まえ、国内でのワクチン接種証明書のさらなる積極活用を支持する動きが広がってきている。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会は9月3日に、ワクチンが行き渡った後の経済社会活動の制限緩和について提言を示した。その中では、接種証明書や検査の陰性証明書を活用して、医療機関・高齢者施設での面会や県境をまたぐ旅行、大規模イベントなどの制限を緩める仕組みの検討を求めた。また、百貨店や飲食店での活用も検討する必要があるとも明記した。これは、個人が他者に二次感染させるリスクが低いと証明する「ワクチン・検査パッケージ」という仕組みである。

提言には「すべての希望者がワクチン接種を終えたとしても集団免疫の獲得は困難」とし、ワクチン接種の進展に偏った感もある、ワクチン接種一本足打法的な政府の政策姿勢をけん制した。また尾身会長は記者会見で、「ワクチンだけの感染制御は困難だ」と言明している。

これは、ワクチンが行き渡った後の経済社会活動の制限緩和についての提言であるが、それ以前の段階でも実施を検討すべきだ。同日の経済財政諮問会議でも、民間議員が、外食や旅行、イベントなどの正常化に向け、国内でのワクチン接種証明や陰性証明の早期導入を盛り込むよう提言した。

ワクチン接種証明国内活用に3つのメリット

フランスなどのように、ワクチン接種証明を入店時に義務化することは、日本では国民の理解を得られないかもしれないが、政府がそれを推奨することは検討すべきではないか。一方で、過度な差別、人権問題を生まないよう、民間主導でのワクチン接種証明について、政府がガイドラインを示すことは重要であり、実際それは準備されているようだ。

陰性証明を含めた形のワクチン接種証明を国内で活用していくことには、3つのメリットがある(コラム「世界に広がるワクチン接種義務・条件化の動きと日本のワクチン証明活用の遅れ」、2021年8月18日)。第1は、他者に感染させるリスクが相対的に高いワクチン未接種者の行動を一定程度制限することは、社会全体の感染抑制策になる。もはや打つ手が無くなってきたように見える政府の感染対策に、一つの新しい手段を提供するのではないか。

第2は、飲食業やイベントなどのビジネスを支え、経済再開に貢献する。ワクチン接種者が少数派である段階では、入店時のワクチン接種証明活用は経済活動を制限してしまうが、ワクチン接種者が多数派となれば、同じ措置が経済活動を後押しすることになる。2回のワクチン接種者の比率は現在人口全体の5割に近付いており、そうした分岐点に来ていると考えられる。ワクチン接種者はワクチン接種を入店の条件とする飲食店を安心して利用するようになるだろう。そうした顧客のニーズが、事業者のワクチン接種証明の利用を促すはずだ。

第3に、ワクチン接種証明の国内活用は、若年層を中心にワクチン接種を促す効果が期待できる。現在、希望者のワクチン接種は進んでいるが、希望しない一定数の存在が、ワクチン接種拡大の障害となり、それがワクチン接種を通じた感染抑制の障害となるだろう。ワクチン接種が先行したイスラエルや米国などではそうした現象が見られている。

そしてなにより、帰省先、旅行先などでワクチン接種を受けたことを周囲にアピールしたいという、一般国民の強いニーズがある。政府はそれにしっかりと応え、民間主導でのワクチン接種証明の国内利用拡大を支援していくべきだろう。

(参考資料)
「ワクチン証明書をスマホで 政府12月発行、申請も電子化」、2021年9月5日、日本経済新聞電子版
「ワクチン接種・陰性証明で制限緩和 政府分科会が提言-希望者への「2回目」完了後を想定」、2021年9月4日、日本経済新聞電子版
「外食・旅行にワクチン証明=感染防止と経済両立へ行程表―諮問会議」、2021年9月3日、官公庁情報(時事通信)
「[社説]ワクチン証明書 欧州の活用例を参考にしたい」、2021年8月29日、東京読売新聞

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