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ECBの資産買い入れペース縮小はテーパリングか否か

2021/09/14

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資産買い入れペースの縮小は妥協の産物

欧州中央銀行(ECB)は9日の理事会で、PEPP(パンデミック緊急買入れプログラム)の買入れペースを10-12月期に縮小させることを決めた。今年3月以降、PEPPの下での資産買い入れは月額800億ユーロであったが、10-12月期には月額600億~700億ユーロに設定されたもようだ。

ECBがコロナ緊急対策として導入したPEPPのもとでの資産買い入れペースの縮小を決めたのは、欧州経済の状況が改善しているからである。また、物価上昇率が大きく上振れていることも考慮された。

一方でラガルド総裁は、この資産買い入れ額の縮小措置は、向こう3か月の微調整であり、「テーパリング(資産買い入れの段階的縮小)ではない」と強調している。ラガルド総裁は今回の決定が全会一致であったことを明らかにしているが、議論はかなり紛糾したはずだ。

縮小に反対するハト派は、デルタ株の拡大が経済に与える影響をなお慎重に見極めるべきとする一方、物価上昇率の上振れは一時的と考える。縮小を主張するタカ派は、あくまでもコロナ緊急対策として導入したPEPPを長く続けるべきではないとする一方、インフレリスクに警戒すべきと考える。かつてなく賛否は分かれたはずである。

しかし、結果的に全会一致の決定になった秘密が、ラガルド総裁の「テーパリングではない」という説明にあるのだ。通常テーパリングとは、資産買い入れによる保有資産残高の増加を終わらせることを決めたうえで、残高一定に向けて計画的に、段階的に資産買い入れを縮小させていく、一種の激変緩和措置である。ところが、ECBは今回の理事会でも、PEPPの下での資産買い入れ総額を、従来通り1兆8,500億ユーロに維持し、またPEPPを2022年3月まで、あるいは必要ならそれ以降まで継続することを改めて確認した。こうしたもとでは、今回の措置はテーパリングの定義には入らないということになる。

資産買い入れを縮小することでタカ派を満足させる一方、テーパリングでないことを強調することでハト派に資産買い入れを縮小させるという、まさに妥協の産物となったのである。ラガルド総裁の巧みな采配だったのかもしれない。

ECBの決定をFRBのテーパリングの後に設定

ラガルド総裁は、PEPPについて12月16日に包括的な議論を行うと述べている。ある意味問題先送りであるが、そこで正式にテーパリングが議論される場合には、今度こそ賛否が大きく分かれる可能性もあるだろう。

テーパリングの決断を12月に先送りしたことの狙いの一つは、ECBがテーパリングを決めるタイミングを、年内の可能性が高い米連邦準備制度理事会(FRB)のテーパリング決定の後に設定することだ。12月のECB理事会も、米連邦公開市場委員会(FOMC)の直後に予定されている。ECBのテーパリングの決定をFRBの決定の後にすることで、ユーロ高が進むリスクを軽減できるのである。

ただし、ECBのPEPPのテーパリングはFRBのテーパリングよりも軽い決定と言える。ECBはコロナ緊急対応のPEPP以外に、通常の資産買い入れ策も行っており、それには修正の議論は出ていない。PEPPのテーパリングはあくまでも緊急措置の解除に向かうことを意味するものであり、本格的な金融政策の正常化策とは言えない。それゆえに、12月の理事会では、賛否は分かれても、PEPPの来年3月での終了と正式なテーパリングが決定される可能性は比較的高いとみておきたい。

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