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ジョージ・ソロスの激しい中国批判

2021/09/16

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「チャイナリスク」とブラックロックの中国ビジネス

中国政府が民間企業に対する統制を一気に強める中、中国株は大きく調整した(コラム「中国規制・統制強化の5か年計画と中国投資プレミアム」、2021年8月19日、「中国『共同富裕』の理念の下での企業・国民への統制強化と経済リスク」、2021年9月3日)。

こうした「チャイナリスク」に対して、米国の投資家の対応は分かれている。引き続き経済潜在力の高い中国を投資対象として重視する投資家がいる一方、中国政府が民間企業を強く規制するなか、中国投資のリスクは明らかに高まったとして、一気に手を引く投資家もでている。

そうした中、中国ビジネスに一層前向きであるように見えるのが、米大手運用会社のブラックロックである。ブラックロックはバイデン政権に深く食い込んでいる(コラム「バイデン政権で存在感を見せるブラックロックとウォール街の対中戦略」、2020年12月7日)。ブラックロック出身者のブライアン・ディーズ氏は米国家経済会議(NEC)委員長に、ウォーリー・アディエモ氏は財務副長官に指名された。米政権の幹部には、今までもウォール街出身者が登用されることが多かった。過去の4つの政権のうち3つでは、財務長官という要職をゴールドマン・サックス出身者が占めていた。現政権では、ブラックロックがその役目を担っているのである。バイデン政権がブラックロック出身者を重用している一因は、ブラックロックが、中国ビジネスに深く食い込んでいるためでもあろう。これは中国との交渉に役立つはずだ。

ブラックロックは最近、中国の個人を対象とした投資信託のために、約10億ドル(約1,100億円)を調達した。同社は中国でのこうしたビジネスを許可された最初で今のところ唯一の外資系企業だ。中国では中産階級が成長し、外資系の投資運用会社に大きな機会をもたらしている。ブラックロックの社内シンクタンクはこの8月に、世界の投資家に対して中国へのエクスポージャーを増やすよう推奨している。

鄧小平氏への個人的な恨みも習氏の改革開放路線修正の背景か

こうしたブラックロックの中国ビジネス拡大を痛烈に批判するのが、著名投資家のジョージ・ソロスだ。同氏は8月に、ウォール・ストリート・ジャーナル紙へ寄稿し、ブラックロックの中国投資は失策だと指摘した。中国に何十億ドルもの資金を投じれば、顧客に損失を与え、米国や他の民主主義国の国家安全保障上の利益を損なう可能性が高いと述べている。

ソロス氏は、中国と米国の関係は急速に悪化しており、台湾問題などをきっかけに、両国が戦争に発展する可能性もあると考える。そして同氏は、鄧小平氏の開放改革路線を高く評価する一方、それを大きく修正しようとする習近平国家主席の姿勢にかなり批判的だ。政策修正の背景に、習氏が鄧氏には個人的に激しい恨みを抱いていることがあるという。習氏は、自分の父親である習仲勲に敬意を払わず、1962年に政治局から追い出したのは、鄧氏だと考えている。習氏は、鄧氏が中国の発展に与えた影響を打ち消すことに身をささげているという。

民間企業への統制強化は「金の卵を産むガチョウ」を殺す恐れ

習氏が開放改革路線を修正し、企業への統制を強化している背景には、鄧氏への個人的な恨みに加えて、中国共産党が経済運営に優れており、米国と対抗するには経済分野で中国共産党の影響力をさらに高める必要がある、との同氏の考えもある。

ソロス氏は寄稿文のなかで、習氏が進める民間企業への統制強化は、「金の卵を産むガチョウ」を殺す恐れがある、と指摘する。習氏は、富の創造者を一党制の支配下に置く決意であり、その目的から、鄧氏の改革時代におおむね消滅した「経営の二重体制」を民間の大企業に再び導入した。民間企業や国有企業は現在、経営陣だけでなく、社長よりも地位の高い党代表者によって運営されている。これは、イノベーション意欲をそぎ、上層部からの指示を待とうとする悪しきインセンティブを生み出す。

確かにソロス氏が指摘するように、習氏が進める民間企業への統制強化には、今までの中国の奇跡の成長の芽を自ら摘んでしまうリスクがあるのではないか。ソロス氏の習氏に対する評価がすべて正しいかどうかは分からないが、その政策が中国投資のリスクを高めていることは確かではないか。同氏の指摘は、世界の投資家が傾聴すべき意見である。

(参考資料)
"Xi’s Dictatorship Threatens the Chinese State, George Soros", Wall Street Journal, August 23, 2021

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