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ワクチン接種証明のスマホ申請・利用と残された課題

2021/09/22

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ワクチン接種証明の国内利用は行動制限緩和前にも始めるべき

政府は新型コロナウイルスのワクチン接種証明書の電子申請・電子交付を年内に始める計画だ(コラム「ワクチン接種証明の電子化と国内利用拡大のメリット」、2021年9月8日)。スマートフォン上で2次元コード付き証明書を表示できるようにする。これを所管するデジタル庁は9月17日に、証明書の電子申請・電子交付に向けた仕様案を公開し、意見募集を始めた。

ワクチン接種証明書は2021年7月末に、海外渡航用として紙での申請・交付が始まった。今回の電子版ワクチン証明書は、海外渡航だけではなく、国内での利用も想定したものだ。

ワクチン接種証明書の国内利用は、第1に、感染抑制対策として有効、第2に、経済活動の再開を後押しする、第3に、ワクチン接種を促す、の3点から重要である(コラム「世界に広がるワクチン接種義務・条件化の動きと日本のワクチン証明活用の遅れ」、2021年8月18日)。

政府はワクチン接種証明書の国内利用を、11月以降に行動制限を緩和する際に本格化させる考えだ。しかし、ワクチン接種証明書は、感染抑制対策として用いることができる。感染リスクがなお相応にある中では、ワクチン接種証明書の提示を入店の条件とすることなどで、規制を強化することができる。感染対策が手詰まりとなる中では、残された数少ない有効策の一つといえるのではないか。

従って、行動制限の緩和のタイミングを待つのではなく、すぐにでもワクチン接種証明書の国内利用を始めるべきだ。ワクチン接種証明書の国内利用は、感染対策と経済再生を両立させる数少ない施策でもある。経済活動の再開を目指したGOTOトラベルなどは、一方で感染リスクを高めたとみられる。

マイナンバーカードを必須としない申請方法

デジタル庁が17日に示した証明書の電子申請・電子交付に向けた仕様案では、2次元コード付き証明書は、スマホアプリから申請と取得を行う。まずスマホで接種証明書アプリをダウンロードして、スマホにマイナンバーカードをかざしたうえで4桁の暗証番号を入力して申請する。マイナンバーが必要なのは、個人の接種記録は「ワクチン接種記録システム(VRS)」でマイナンバーとひも付けて記録されているためだ。申請のために役所の窓口に出向くことなく、申請がスマホで完結する。

ただし、マイナンバーカードの取得率が4割に満たない現状で、マイナンバーカードがないことが、電子版ワクチン接種証明書の普及を妨げるリスクがある。しかし、そのようなことがあってはならないだろう。マイナンバーカードを申請の条件にすることで、マイナンバーカードの普及を後押しすることができるが、当面の重要性を考えれば、電子版ワクチン接種証明書の普及の方が優先度は高い。この点に配慮した制度設計が望まれるところだ。

陰性証明も電子版ワクチン接種証明書に組み入れることが不可欠

さらに、陰性証明の扱いが明らかではない。海外ではワクチン接種証明と陰性証明を一体で運用するアプリが用いられるのが普通だ。2回のワクチン接種証明と同様に陰性証明も感染リスクが低いことを示すものだ。病気等によりワクチン接種をしたくもできない人が行動を制限され、不当な差別とならないようにするためには、陰性証明もこの電子版ワクチン接種証明書に組み入れることが不可欠だ。

政府が差別につながるリスクを意識してワクチン接種証明書の国内利用に慎重な姿勢を維持する中で、飲食店や地方公共団体は、独自のワクチン接種証明書の発行やワクチン証明の利用をどんどん進めている。政府は、こうした民間や地方でのニーズの強さを読み誤った感がある。

ただし、民間、地方での利用が広まる中で、過剰な差別につながることなどがないように、ワクチン接種証明書の国内利用に関するガイドラインを早期に示すことが政府には求められる。

(参考資料)
「【ニュース解説】スマホで見せるワクチン接種証明書、デジタル庁が仕様案を公開するも残る課題」、2021年9月17日、日経クロステック

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