中国恒大問題は世界の金融危機、資産デフレのリスクをむしろ先送りも
恒大問題で中国経済の減速と資産デフレ的傾向は避けられない
中国恒大の経営危機問題は、中国経済に顕著な減速と資産デフレ的な傾向をもたらす可能性が高まっている。
恒大の経営危機問題の帰趨は、中国政府の手に大きく握られているが、「共同富裕」の理念の下での企業統制強化、企業債務の抑制と金融システムの健全化を優先するなかで、政府は経済、金融面での多少の混乱を甘受する可能性が高い。しかし、恒大の問題が深刻な資産デフレと国内金融の混乱につながることは何とか回避するよう努めるだろう。そのため、他の不動産企業あるいは関連業種に対する波及には目を光らせ、規制強化の一時的な緩和と支援を行う可能性もあるのではないか。
恒大は債務を急拡大させる一方、住宅の安売りで販売を拡大させてきた。経営危機が表面化してからも、同社は流動性危機への対応から住宅物件の投げ売りを進めている可能性がある。その結果、住宅価格が大きく下落すれば、その打撃は不動産業界全体に及ぶ。
不動産部門が中国のGDPに占める割合は2010年には2.3%だったが、昨年には約7.3%にまで達している。不動産業の低迷は中国経済全体に大きな打撃となることは避けられない。銀行の不良債権問題にもつながるだろう。さらに、住宅価格の下落は個人の保有資産を減額させ、逆資産効果で個人消費にも悪影響を及ぼすだろう。中国人民銀の調査(2019年)によると、中国家計が保有する資産の約74%は住宅である。
中国の住宅価格はなお大都市を中心に上昇を続けているが、住宅販売が急減していることから、住宅価格も早晩下落に転じるだろう。
恒大の経営危機問題についての今後の処理過程で、政府は、恒大の経営陣、債権者である国有銀行を中心とした金融機関、機関投資家、特に海外投資家に大きな犠牲を強いるだろう。他方で、サプライヤー、住宅購入者、小口投資家などをできる限り守る姿勢を見せるだろう。
金融機関が国内の他の不動産会社から資金を引き揚げることでドミノ式に経営破綻が広がり、住宅・土地価格が暴落する事態は避けねばならない。また、サプライヤーであるコンクリート・鉄鋼・電線・鋼管などの建設資材の供給企業が破綻し、失業者が急増する事態も回避に努めるだろう。それでも、恒大の経営危機が経済全体への悪影響と資産デフレ的な傾向を生じさせることは避けられない。
世界の金融危機、資産デフレのリスクをむしろ先送りか
他国に先駆けてコロナショックからいち早く経済を回復させた中国では、経済の減速傾向が明確になってきている。そもそも、コロナショック後の急回復は持続性を欠くうえ、感染リスクを警戒する消費者の行動変容などから、経済活動への悪影響は長期化しやすい。中国経済の減速は、中国に遅れて経済を回復させてきた欧米諸国の先行きの姿を指し示しているのではないか。
コロナ関連の経済対策の効果が剥落していくことに加えて、感染再拡大や中国経済の減速の影響が波及することなどから、この先、欧米など先進国経済は減速傾向を示していくと見込まれる。その過程で、各国で見られている住宅価格の高騰も次第に収まっていくだろう。
他方で注目したいのは、景気回復ペースの低下、住宅価格高騰、高い物価上昇の一巡を受けて、欧米など先進国では、テーパリング(資産買い入れの段階的縮小)、政策金利引き上げなど金融政策の正常化のプロセスが、現在の金融市場の予測よりも先送りされていくことだ。そのことは、金融政策の正常化をきっかけにする、金融市場の歪みの大幅調整、住宅価格の大幅下落などの、いわばハードランディングのリスクもあわせて先送りすることになる。
中国恒大の経営危機問題は、中国国内では金融不安の問題に発展し得るが、以上のような経路を通じて、世界的な金融危機、資産デフレのリスクを、当面のところはむしろ先送りすることにつながるのではないか。
(参考資料)
"Evergrande Is China’s Economy in a Nutshell", Wall Street Journal, September 22, 2021
"China’s Regulatory Storm Risks Triggering Wider Economic Damage", Wall Street Journal, September 22, 2021
"China Evergrande Auditor Gave Clean Bill of Health Despite Debt", Wall Street Journal, September 25, 2021