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米国のデフォルトリスクがグローバルに波及

2021/09/29

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米政府がデフォルトに陥る「Xデー」

米国議会での政府の債務上限引き上げを巡る交渉の難航が、いよいよグローバルに金融市場を揺るがす事態にまで発展してきた。

9月末に会計年度が終わるが、議会が予算措置を講じなければ、政府機関の一部が閉鎖されることになる。さらに政府債務の上限引き上げで議会が合意しなければ、政府がデフォルト(債務不履行)に陥る恐れが出てきたのである。イエレン財務長官は10月18日前後に財務省の手元資金が切れる見通しと説明している。いわゆる「Xデー」だ。ただし、コロナ対策関連の支出、そして税収の双方の動きが読みにくくなっており、もっと早いタイミングで政府がデフォルトに陥る「Xデー」が到来する可能性もある。

民主・共和両党は、経済対策を巡って議会で対立してきた。超党派議員らによる約1兆ドルのインフラ投資と、医療ケアや教育、気候変動対策を含む3兆5,000億ドルの経済政策についての激しい議論が続いている。それが、この債務上限引き上げを巡る議論の障害ともなっている。

上院民主党は、21年12月3日までのつなぎ予算と、22年12月までの債務上限引き上げの採決を目指しているが、上院共和党はそれを阻んでいる。

デフォルトとなれば悪影響は計り知れない

イエレン米財務長官は28日の議会公聴会で、議会が債務上限の引き上げに失敗すれば、「市場で米国の信用力の低下」を招く、「金融危機や(経済)破綻を招きかねない」と警告している。また、絶対安全資産としての米ドルの地位が揺らぎ、人民元の国際化をもくろむ中国を利するとの認識を示している。実際デフォルトとなれば、悪影響は計り知れない。

10年前の2011年8月には、債務上限引き上げ法案がぎりぎりのところで成立しデフォルトは回避されたが、その直後に米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が米国債の格下げを発表し、市場に大きな動揺が広がった。

デフォルトリスクを織り込むTbill市場

金融市場は、過去と同様にデフォルトはぎりぎり回避されることを想定しているが、デフォルトのリスクも徐々に織り込み始めている。それが最も顕著なのは、償還期間が1年以内のTbill(財務省短期証券)市場だ。政府の債務が上限に達し、期日に支払いができなくなるデフォルトのリスクが生じる10月中旬から11月中旬に満期を迎えるTbillの金利が、顕著に上昇している。現時点では、4週間物の金利は0.08%(ビット)、2か月物は0.03%、3か月物は0.02%と逆イールド化している。

債務上限に達することをできるだけ先送りするために、財務省はTbillの発行を減らしている。財務省は今週、1,490億ドルのTbillを発行する一方、2,760億ドルの満期償還を予定しており、1,270億ドルの償還超となり残高は減少する。先週は1,160億ドル、先々週は680億ドルそれぞれ発行残高を減らしており、減少額は加速度的に高まっている。

Tbillの発行残高減少は、金融機関が短期資金を安全資産で運用する機会を奪い、深刻なTbillの玉不足が生まれている。それはTbillの金利を下げる要因である。しかし、デフォルトのリスクプレミアムの上昇がそれに勝り、既にみたような短めのTbillの金利上昇が生じているのである。

金融市場の動揺は議会の合意を後押しか

このTbillの金利上昇が、足元では金融市場全体に波及をし始めている。米国の長期金利が上昇傾向を強めたのは、米連邦準備制度理事会(FRB)のテーパリングや利上げ観測、イングランド銀行(BOE)の利上げ観測に加えて、Tbillの金利上昇とデフォルトリスクの影響によるものだ。

またそれは、日米長期金利差の拡大を通じて円安ドル高傾向をもたらしている。さらに28日には米国株価が大幅に下落し、29日には日本株が大きく下落するなど、米国のデフォルト懸念はグローバルに金融市場の大きなリスクとして認識され始めている。

過去と同様に、最終的には債務上限の引き上げ、あるいは一時停止によってデフォルトは回避される可能性は高いとみておきたいが、「もしかしたら今回は違うのではないか」との不安が、金融市場の動揺を誘うことになるだろう。「Xデー」が近づく中、金融市場の動揺はさらに激しさを増していくのではないか。

そうした金融市場の動揺こそが、議員の危機意識を高め、議会での合意を後押しすることになるだろう。逆に言えば、デフォルト回避には、金融市場の動揺が避けられないプロセスとも言えるのではないか。

(参考資料)
"Debt-Ceiling Standoff Distorts Short-Term Treasury Market", Wall Street Journal, September 29, 2021

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