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米国デフォルトのⅩデー近付き揺らぐドルの信認

2021/10/01

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政府機関閉鎖は回避も政府のデフォルト問題は解消されず

年度末の9月30日に米上下両院は、9週間の暫定予算案を可決し、バイデン大統領の署名をもって発効した。これによって、連邦政府機関が閉鎖に追い込まれる事態はなんとか回避された。しかし一方で、もう一つの財政上の深刻な問題である、政府のデフォルト(債務不履行)につながる債務上限問題は解消されていない。民主党は当初、暫定予算と債務上限を一時的に凍結することを合わせた法案を提案したが、共和党の反対に阻まれた。そのため、同法案から債務上限への対応を外して、政府機関閉鎖の回避を優先させたのである。

イエレン財務長官は、10月18日頃までに議会で債務上限引き上げ、あるいは一時凍結などの措置がなされなければ、米国政府の債務返済が滞る事態になると警鐘を鳴らしている。

前例のない先進国での国債デフォルト

米政府のデフォルトリスクの問題は、金利上昇、株安など世界の金融市場に大きな悪影響を及ぼし始めている。さらにデフォルトリスクを織り込んだ米国での長短金利の上昇は、一時的にドル高傾向を生んでいるが、それが新興市場からの資金流出を促している面もある。

先進国の国債は絶対的な安全資産であり、その金利はリスクフリー金利である。その中でも米国国債は規模、流動性の観点から安全資産のまさに代表格であり、世界の金利水準全体の基礎をなしていると言える。その米国債がデフォルトに陥れば、世界全体で金融資産に金利が上乗せされる等、未曽有の混乱となることは避けられない。米国に限らず、先進国の国債がデフォルトに陥るような事態は、現代では前例がないのである。

米政府のデフォルトリスクの問題を受けて、金融市場の混乱が深まれば、議員らの危機意識が高まり、それが債務上限問題の解消に向けた対応が促されるという展開は十分に考えられるところだ(コラム「米国のデフォルトリスクがグローバルに波及」、2021年9月29日)。

しかし、最終的にデフォルトが回避されても、その間、金融市場に大きな混乱が生じ、また、そうした事態を政府、議会が回避する能力を欠いていると判断されれば、デフォルトのリスクプレミアムは、一定程度、米国債や金融市場全体に定着してしまう可能性も考えられるところだ。

デフォルトになれば米国債の格付けは最低位の「D」格に

10年前の2011年にも、米国はデフォルトの瀬戸際まで追い込まれた。最終的にはそれは回避されたが、米大手格付け会社のS&Pは、直後に米国債の格付けを最上級の「AAA」から「AAプラス」へと1段階引き下げた。今回も混乱が長引けば、同社は国債の格付けをさらに引き下げる可能性があるのではないか。

S&Pグローバル・レーティングは30日に、米国がデフォルトに陥る場合、金融市場に深刻かつ甚大な影響が及ぶと警告した。ただし、米議会は最終的には債務上限問題をタイムリーに処理する見込みとしている。そのため現状では、「AAプラス」の格付けを維持している。

しかし同社は、仮にデフォルトが発生すれば、米国の格付けを最低水準の「D」に引き下げると警告している。他国が債務不履行となった場合と同様の措置を米国でも取るとし、短中長期債にかかわらず、1つでもデフォルトすればDに格下げすると説明している。

デフォルト問題で揺らぐドルの信認

デフォルトリスク等を織り込んだ金利の上昇を受けて、足元ではドル高傾向が見られる。しかし、デフォルト問題をきっかけにドルの信認が低下し、ドル安傾向に転じる可能性も考えられる。他にもドルの価値を下げる要因が重なっている点にも留意したい。

コロナ対策やバイデン政権の経済対策を受けて、先行きの米国の財政悪化見通しが高まっている。これは貿易・経常赤字の拡大とともに「双子の赤字問題」の再燃を招き、ドルの信認を潜在的に低下させている。さらに、来年発行予定の中国のデジタル人民元は、周辺国での利用が広まっていくなかで、ドルの地位低下へとつながる可能性がある。

今回の米国のデフォルト問題は、やや長い目でみて、ドルの価値が下がり、世界に占めるその地位が低下していく契機となる可能性があるのではないか。

(参考資料)
「米、デフォルトなら影響甚大 債務上限問題は解決を予想=S&P」、2021年10月1日、ロイター

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