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悪性スタグフレーションの足音:IMF世界経済見通し

2021/10/13

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先行きの大幅な成長見通し下方修正のプレリュードか

国際通貨基金(IMF)は12日に、最新の世界経済見通しを発表した。2021年の世界経済の成長率見通しは+5.9%と、前回7月時点での+6.0%から0.1%ポイントの下方修正となった。2022年の成長率見通しは、+4.9%で変わらなかった。

下方修正は小幅にとどまったが、サプライチェーンの混乱による半導体などの不足、原油など資源価格含む物価上昇率の上振れ、中国の不動産問題、中央銀行の金融政策正常化と市中金利の上昇といった、成長の逆風が足元では俄かに強まっている。IMFの今回の見通しは、こうした足もとでの環境変化の影響を十分に反映していないとみられる。その結果、今回の見通し下方修正は、この先の大幅な見通し下方修正の始まり、プレリュードとなる可能性も考えられる。

2021年の米国成長率を大きく下方修正

2021年の成長率見通しで下方修正幅が特に大きかったのは米国だ。成長率は前回の+7.0%から今回+6.0%へと1.0%ポイントもの大幅下方修正となった。米国の成長率は今年1-3月期、4-6月期はともに年率6%台の高い成長率を記録したが、7-9月期には成長に急ブレーキがかかり、1%台の成長率にとどまる可能性も出てきた。

変異株の拡大が経済活動の再開に水を差す一方、半導体など部品不足が自動車生産を大きく減少させていることの影響がある。今年3月に成立した1.9兆ドルのコロナ経済対策の効果が剥落していることの影響もあるだろう。

中国の成長率見通しは、2021年に+8.0%、2022年に+5.6%と、前回見通しから0.1%ポイントずつの小幅下方修正となった。しかし、不動産大手恒大の経営危機問題などを受けて、2022年の民間の成長率見通しでは4%台も見られるようになる中、このIMFの見通しはかなり楽観的な印象だ。

また日本の2021年の成長率見通しは+2.4%、2022年は+3.2%と、前回7月の見通しからそれぞれ0.4%ポイントの下方修正、0.2%ポイントの上方修正となった。

需要と供給のミスマッチが価格上昇に

IMFは、先進国・地域の実質GDPがコロナ問題前のトレンドに戻る時期を、2022年と予想している。それは、物価動向に大きく影響する需給ギャップがコロナ問題前の水準に戻るタイミングと一致していると考えてよいだろう。現状の需給ギャップはその水準をまだ相応に下回っている中で、多くの国で物価上昇率は大きく上振れているのである。

コロナ問題によって生じた特定分野での需要と供給のミスマッチが一部の価格を大きく高め、それが物価上昇率の上振れをもたらしている。価格上昇が供給を促し、需要を抑えることで、こうした需要と供給のミスマッチは解消されるのが普通である。その調整過程では、物価上昇率の上振れと成長鈍化が並行して進む、スタグフレーション的状況が生まれる。来年にかけての世界経済は、そうした状況になるだろう。

悪性スタグフレーションへの転化を防げるか

ただし、感染リスクが長期化することなどから、部分的かつ一時的な価格上昇率の上振れがなかなか解消されず、その結果、一般的かつ継続的な物価上昇率の上振れへと転化してしまうリスクがある。そのリスクを高めるのがインフレ期待の上昇である。そのため、今後、各国の中央銀行は、インフレ期待の指標により注目するようになるだろう。

インフレ期待が本格的に高まり始めれば、中央銀行は景気への悪影響を甘受しつつ、本格的な金融引き締めに動くことが求められる。その際には、本格的なスタグフレーションが生じる一方、金融引き締め策が資産価格を押し下げる、資産デフレ的様相も合わせて生じてくるのではないか。

現在ワシントンで開かれているG20(20か国財務相・中央銀行総裁会議)は、世界経済のリスクとなっているエネルギー価格高騰、サプライチェーンの問題による生産減少、物価上昇率の高まりなどへの対応を議論しているとみられる。しかし、マクロではなく個別分野での支障が合わさって生じるこうした問題への有効な対応策は、容易には見いだされないだろう。

現在の物価上昇率の上振れが悪性スタグフレーションに転化することを防ぐためには、まずは感染リスクの軽減を優先する必要がある。それに加えて、供給を増やすことで需給のミスマッチを解消するには、企業の業態転換、労働者の転職など、企業、労働者の流動性を高める施策が重要だろう。

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