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原油高への対応も衆院選の争点か:円安・原油高のダブルパンチで個人消費は0.9%減少

2021/10/18

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岸田政権が原油高への対応を開始

18日の東京市場では、原油価格の上昇と円安に一段と弾みが付き、日本経済には「悪い物価上昇」、「悪い円安」傾向が強まっている。緊急事態宣言解除後の国内消費、国内経済の回復に水を差しかねない状況だ。

原油先物価格(WTI)は、18日のアジア市場で1バレル83ドル台と、ほぼ7年ぶりの水準にまで達している。アジアや欧州では、天然ガス、石炭の不足が石油製品への需要を高めていることなどが背景にある。

他方、為替市場ではドル高円安傾向が進み、1ドル114円台と2017年以来の円安水準となっている。ドルは他通貨に対しては比較的安定していることから、足元の為替市場の動きは、ドル高というよりも円安の側面が強いだろう。

米国を含めた国では、原油価格上昇が金融政策の正常化期待を高めることと相まって、長期金利に上昇圧力をかけている一方、日本では金融政策の正常化期待が高まらず、原油高のもとでも長期金利上昇の余地は限られる。その結果、長期金利差の拡大が、円安傾向を生じさせている側面が強いだろう。

原油価格の高騰を受けて岸田首相は、1)原油市場の動向、国内産業と国民生活への影響を注視、2)主要産油国への増産働きかけ、3)関係業界への必要な対応の機動的実施の3点の対応策を挙げ、松野官房長官に対して、経済財政担当相、経済産業相、農相、国土交通相と連携して対応するように指示した。

そのうえで岸田首相は、「主要な産油国への増産の働きかけがまず大事」、「影響がどのような業界、団体に出ているのか確認した上で、具体的な対応を関係閣僚で調整してもらう」と説明した。さらに、18日午後3時から経済閣僚会議を官邸で開催することを明らかにした。

原油高によってバラマキ的な政策が強まるか

原油価格高騰への対応は、衆院選の争点になる可能性が出てきた。ただし、その影響は広範囲に及ぶため、具体的な政策対応をどの範囲とするのかなど、難しい点がある。岸田首相は、主要な産油国への増産の働きかけがまず大事、と述べているが、日本が単独で主要産油国への増産を働きかけただけで、原油の増産が促され、原油価格の上昇が止まるとは思えない。他方で、原油高を脱炭素、脱化石燃料の議論と各党がどのように関連付けて議論するのかも、注目されるところだ。

岸田政権は企業から労働者への所得分配を促すことを、経済政策の柱としている。他方、この原油価格高騰は、日本が原油・石油製品などを輸入する国へ、日本の所得が流出することを意味する。国内の所得分配ではなく国際的な所得分配を、政策で変えることはかなり難しい。

ほぼすべての企業は原油高の悪影響を受けるが、実際に政府が支援する場合には、中小・零細企業に対する補助金などが考えられるだろう。

ただし、コロナショックで大きな打撃を受けている飲食業、旅行・宿泊業なども、電力料金、燃料費、ガソリン代の上昇などを通じて、原油高の影響を大きく受ける。新たな補助金制度を導入する場合、岸田政権が導入を表明しているコロナ問題で打撃を受けている企業に対する新たな給付金制度とどのように調整するのだろうか。

他方、原油高は、現在各党が実施を検討している個人向け給付金をよりバラマキ色の強いものにする可能性がある。すべての個人を対象とする一律給付的なものにする方向、あるいは金額を上積みさせる方向へと、議論を後押しする可能性があるのではないか。

年初来の原油高で企業収益は7.3%低下、円安・原油高で個人消費は0.9%減少

年初から足元まで、原油価格は約63%上昇している。内閣府・短期日本経済マクロ計量モデル(2018年版)によると、それは短期的な効果で、企業収益(法人企業所得)を7.28%も減少させる。また収益悪化などを通じて、実質設備投資を短期的に0.03%、1年間の累積効果で0.19%減少させる効果を持つ。

他方、年初からの原油価格上昇は、個人消費デフレータを短期的に0.78%、1年間の累積効果で0.72%押し上げる。それらを通じて実質個人消費を短期的に0.78%、1年間の累積効果で0.85%押し下げる。

さらに足元で進む円安も、個人消費デフレータを押し上げ、実質個人消費に打撃となる。年初からの約11%のドル高円安は、個人消費デフレータを短期的に0.19%押し上げ、実質個人消費を短期的に0.11%押し下げる。年初からの原油高と円安の効果を合計すると、それによって短期的に実質個人消費は0.89%押し下げられる計算となる。

原油価格高騰と円安には、緊急事態宣言解除後の個人消費の持ち直しに水を差し、日本経済の回復を一段と遅らせるリスクがある。

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