フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 永久国債の発行は現実味が乏しい

永久国債の発行は現実味が乏しい

2021/10/19

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

永久国債は市中消化が難しい

国民民主党は衆院選に向けた公約で、「積極財政に転換して現金給付や消費税減税などを実施するため、教育国債の創設や日銀保有国債の一部永久国債化などで財源を多様化し、確保する」としている。これに対して岸田首相は、「安定財源の確保、あるいは財政の信認確保の観点から慎重に検討する必要がある」との認識を示している。

償還する必要がない永久国債は英国など多くの国で発行されている。償還する必要がない分、割安な資金調達方法であるようにも見える。政府は利払いだけを続けていれば良いからである。

しかし主な買い手である銀行や生命保険会社が、果たして永久国債を持ちたいと思うだろうか。国債は幾らか価格が変動しても、投資家がそれを売却せずに持ち続けて無事償還の日を迎えれば、政府が額面で買い戻してくれる。そのことが大きな魅力だ。それを前提に時価会計を回避できている面もあるだろう。

償還のない永久国債となれば、そうしたメリットがなくなりリスクが高まる。そこで、投資家が通常の国債よりも高いクーポン(利回り)を要求するだろう。通常の国債であれば、部分償還と借り換えを繰り返しながら60年をかけてすべてが償還される。その間は、発行額の60分の1となる1.7%とクーポン支払いの合計が、その国債発行に関する各年の政府の負担となり、それが一般予算の国債費となる。

永久国債に対して投資家が高いクーポンを要求する場合、それが通常の国債の場合の1.7%とクーポン支払いの合計を上回る可能性も出てくるのではないか。それでは、当面、割安な資金調達方法とはならない。

また、現在40年までの超長期国債しか発行していない政府が、永久国債を発行することにはリスクがある。長い国債であればあるほど市場での消化は難しくなる。その入札に失敗すれば、未曽有の発行残高に達している日本国債を市場が消化することの脆弱さを一気に露呈することにもなり、国債市場全体の混乱の引き金を引きかねない。

永久国債を日本銀行が直接政府から引き受けることは違法

ところで、国民民主党は「日銀保有国債の一部永久国債化」としており、民間投資家に保有してもらう意図ではないようだ。しかし、国債はまず銀行、証券からなるプライマリーディーラーに売却し、それを日本銀行が買い取る流れである。従って、以上のような問題は避けられない。政府が市場を介さずに日本銀行に直接引き受けさせることは、財政法で禁じられているのである。

国民民主党が「日銀保有国債の一部永久国債化」とする場合、日本銀行がオペを通じて銀行などからそれを買い入れるのか、既に保有する国債を政府が新規に発行する永久国債と交換するのか、あるいは日本銀行に直接引き受けさせるのか、その手段は明らかではない。しかし、後者の2つの手段であれば、クリアすべき法的ハードルはかなり高い。

永久国債構想は決して妙手ではなく悪手

仮にそれらがクリアされたとして、日本銀行に永久国債を保有させることの狙いは何だろうか。日本銀行は2%の物価目標を達成するため、つまり金融政策手段として国債を買入れ保有している。保有する国債は償還されていくが、保有残高の水準を減らさないようにするために、日本銀行は絶えず償還分だけ新規に国債を買入れているのである。

償還のない永久国債でなくても、目標とする残高を達成し維持することができる。日本銀行が保有する国債が通常の国債であっても、永久国債であっても、政策姿勢や政策効果に違いはないはずだ。

ただし、金融政策を正常化する際には、違いは出てくる。日本銀行が将来正式に正常化に向かう際には、保有する国債が償還されることを利用して、国債保有残高を削減していくことになる。償還前の国債を市場で売却しても残高を削減することはできるが、それでは国債市場に悪影響が及び金利が上昇するリスクがある。そのリスクを回避するため、日本銀行は償還見合いで国債残高を削減していく可能性が高いのである。

しかし永久国債には償還がないため、それは日本銀行が金融政策の正常化の一環として、保有国債の残高を削減することの障害となる。市場で売却することは可能ではあるが、市場の反応を見極めながら行う必要が出てくる。このように、日本銀行に永久国債を保有させることは金融政策の正常化を妨げてしまう面がある。

金融緩和策としての大量の国債保有が不要になってもなお、日本銀行に国債の保有を続けさせることが永久国債発行の目的であるならば、それは日本銀行に国債の消化を協力させる財政ファイナンスに他ならない。そうなれば、財政の規律が一段と緩むという懸念や、国債と通貨の信認がともに低下する形で金融市場に悪影響が生じるだろう。永久国債構想は決して妙手ではなく悪手であり、その実現可能性は乏しい。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn