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パウエル議長が不適切な金融取引か?

2021/10/20

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パウエル議長が昨年株式投信売却との報道

政治専門メディア「アメリカン・プロスペクト」は18日、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が2020年10月に保有する株式投資信託を最大500万ドル売却していた、と報じた。

FRBの倫理規定では、銀行株の保有禁止、米連邦公開市場委員会(FOMC)直前と開催中の取引禁止、金融商品の売買や保有についての開示などが、FRB高官に求められている。

アメリカン・プロスペクトによれば、パウエル氏が投資信託を売却したのは昨年10月1日である。新型コロナウイルスの追加経済対策を巡る調整が難航していた時期であり、同日には当時のムニューシン財務長官と4回会談していたという。

10月1日はFOMCの直前ではなく、「FOMC直前と開催中の取引禁止」というFRBの倫理規定には抵触しない。しかし、「金融商品の売買や保有についての開示」には抵触した可能性がある。また、報道が正しければ、倫理的な側面から批判が高まる可能性は高いだろう。

9月には金融取引で2人の連銀総裁が辞任

パウエル議長が昨年個人として行った投資記録に関する文書によると、地方債を保有していることも既に判明している。これはFRBの倫理規定に抵触しないが、問題なのは、2020年にFRBが打ち出した施策の中に、地方自治体が確実に機能を継続できるよう最大5,000億ドル相当の地方債を買い入れる「地方自治体流動性ファシリティー」も含まれていたことだ。こうした施策は、地方債を保有するパウエル議長個人に利益をもたらす可能性がある。

また今年9月27日には、2020年に不動産投資信託(REIT)や株式を売買していたことが資産公開で明らかになった米ボストン連邦準備銀行のローゼングレン総裁とダラス連銀のカプラン総裁が辞任を決めている。それを受けてパウエル議長は、状況を徹底的に精査し、規定を厳しくするか検討する、と説明していた(コラム「連銀総裁の投資問題はFRBの金融政策やパウエル議長の再任にも影響か」、2021年9月29日)。

仮に今回の報道が正しければ、パウエル議長の辞任観測が広がる可能性があるのではないか。あるいはそこまでいかなくても、来年2月に任期を迎えるパウエル議長の再任に向けて強い逆風となる可能性がある。

パウエル議長の再任に黄色信号か

バイデン大統領は今のところ、パウエル議長の再任を支持している。パウエル氏の議長再任と、女性のブレイナード理事の副議長起用を検討している、と複数のメディアは報じている。

しかし民主党の急進左派の間では、パウエル議長の再任に反対の声も上がっている。ウォーレン上院議員は、パウエル氏が大手銀行への規制を緩和したなどとして、「危険な人物だ」と再任に反対している。9月下旬の米議会上院で民主党メネンデス議員は、パウエル体制下で「幹部に人種的少数派がほとんど起用されなかった」ことを問題視する発言をしている。それに対し「多様性を優先課題として取り組んできた」と釈明したパウエル議長を「目に見える失敗だ」と批判した。

コロナショックに対する積極対応でパウエル議長の評価は一般に高まったが、民主党急進左派は、金融政策手腕とは異なる面から、パウエル議長の再選に反対しているのである。今回の報道によって、パウエル議長の再任反対の意見に一層弾みが付くだろう。

事態は未だ流動的だが、仮に金融市場で評価が高いパウエル議長が再任されないとの観測が広がれば、株安などにつながる可能性があるのではないか。他方、ブレイナード理事が議長に指名されるとの観測が広がれば、ドル安要因になる可能性がある。ブレイナード理事はパウエル議長以上にハト派であるからだ。

(参考資料)
「FRBパウエル議長が昨年、株価下落前に投資信託5億7千万円売却か」、2021年10月19日、読売新聞速報ニュース
「FRBに多様性求める声―パウエル議長の去就も焦点」、2021年10月19日、共同通信ニュース

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