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中国恒大の事態収拾に乗り出す当局と中国のシャドーバンキング問題

2021/10/21

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中国恒大の金融リスクは制御可能と当局は説明

中国恒大の経営危機問題に関して、ようやく当局の目立った動きが見られるようになってきた。中国人民銀行(中央銀行)の金融市場担当責任者は15日に、各金融機関に対する中国恒大の負債は恒大の負債全体の3分の1足らずであり、債権者も分散しているとし、中国恒大の債務問題が金融システムに及ぼす波及効果は制御可能だ、と述べた。そのうえで、「中国恒大はここ数年、経営がうまく機能しておらず、市場の変化に応じて慎重に事業を運営せずにやみくもに事業を多角化、拡大していた」と、この問題が中国恒大の個別問題であることを強調した。

香港の金融監督当局は15日、同社の事業継続性に関する報告の妥当性に問題があるとした。恒大の2020年度決算では、流動負債が1兆5,070億元(約27兆円)、2022年に返済期限を迎える借入金が1,670億元あるのに対し、現金が1,590億元しかないとし、債務不履行に陥るリスクが小さくないことを示している。

銀行に住宅ローンの拡大を指示

中国当局は中国恒大に対し資産売却と建設プロジェクトの再開を強化するよう求めており、そのための資金調達を当局が支援するとした。また地方政府と連携し、建設が止まった不動産開発の再開への金融支援を進めていく考えも示した。

中国恒大の責任は問う一方、同社の問題が業界全体に波及することを抑えるために、当局がいよいよ自体の収拾に向けて支援に乗り出すことを初めて明らかにしたのである。

また中国の金融当局は、一部大手銀行に対して、第4・四半期に住宅ローン承認を加速するよう指示した。中国人民銀行(中央銀行)の易綱総裁は9月末に、24の金融機関に対し「不動産市場の安定的で健全な発展を維持し、住宅消費者の正当な権利と利益を保護する」よう求めていた。

中国恒大の経営危機を受けて、個人の住宅購入は急減速している。購入代金を支払っても住宅が手に入らないリスクや、住宅の資産価値が先行き下がるとの懸念が背景にある。当局は、住宅市場のテコ入れに動き出したのである。

中国のシャドーバンキング問題と理財商品

銀行の中国恒大への融資の規模は必ずしも大きくなく、一気に銀行の不良債権問題、銀行システムの不安へと発展するようには見えない。

しかし、従来から指摘されてきたように、中国が抱える大きな金融問題は、シャドーバンキング(非銀行金融機関)の肥大化にある。銀行は簿外の投資会社を管理、支援し、それを通じて信用を拡大させてきた。そして投資会社の代表的な資金調達手段が、個人に販売する投資信託、「理財商品」である。銀行が保証する理財商品のデフォルト、あるいは銀行が融資を行っている投資会社が破綻した際には、銀行に損失が発生する。

ただし、現在浮上している理財商品のデフォルトは、銀行ではなく中国恒大が保証している理財商品のデフォルトである。また、投資会社の破綻などの問題も聞かれていない。

中国の不動産開発は理財商品を通じた資金調達と強く結びついている。そして理財商品を多く保有しているのは個人である。不動産不況によって銀行に損失が生じれば、それは銀行危機問題に発展する。また、投資会社など銀行以外の金融機関に損失が生じ、多くの金融資産の投げ売りを強いられる状況に追い込まれれば、それは金融市場の大きな混乱につながるだろう。日本のバブル崩壊やリーマンショックは前者、昨年3月のコロナショックは後者に当てはまる。

恒大のリスクは社会問題と経済問題

しかし中国恒大はどちらにも当てはまらないだろう。理財商品にデフォルトは生じているが、他の金融商品への目立った波及は見られていない。米国金融市場のように、金融商品が比較的単純であることも、混乱の拡大を抑えている面があるだろう。

中国恒大の金融面での問題は、主に個人が多く保有している理財商品のデフォルト問題に帰着するのではないか。それは、金融危機ではなく中国国内の社会問題の側面が強いだろう。そして、不動産ビジネスの悪化は、中国経済全体に強い逆風となる。金融面での世界的な影響は限定的だが、世界経済に与える影響は決して小さくないだろう。

(参考資料)
「中国恒大問題の金融システムへの波及は制御可能=人民銀当局者」、2021年11月15日、ロイター通信ニュース
「中国恒大の財務調査に着手=事業継続性に問題―香港当局」、2021年10月15日、時事通信ニュース

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