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岸田政権下での日韓関係と韓国大統領選挙

2021/10/25

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岸田政権の韓国の外交優先順位は高くないか

大幅に悪化してしまった日韓関係を改善させることは、日韓が協力して核・ミサイル開発を進める北朝鮮に対抗していくという観点からも重要である。日本で新たに岸田政権が誕生したことは、関係改善のきっかけになるとの期待が韓国側にはあった。岸田首相は自民党内でリベラル派であり、またアジア諸国との友好を重視し、韓国との関係も歴史のある宏池会を率いているからだ。2015年、岸田首相が外相の時に日韓慰安婦合意文に署名した。また2016年の韓日軍事情報包括保護協定(GSOMIAG)妥結も岸田外相の時に実現したものだ。

しかし、そうした韓国での楽観論は急速に薄れているように見える。岸田政権から関係改善のために韓国側に働きかけるそぶりはない。そして、日韓関係は岸田政権の外交政策で優先順位が高くないようだ。岸田首相は所信表明演説で「韓国は重要な隣国だ。健全な関係に戻すためにも、わが国の一貫した立場に基づき、韓国側に適切な対応を強く求めていく」と述べていたが、それはかなり短い言及だった。

また、韓国に対する姿勢は電話による首脳会談にも表れている。岸田首相は4日に就任した後、5日には米国のバイデン大統領、豪州のスコット・モリソン首相、7日にはロシアのプーチン大統領、インドのモディ首相、8日には中国の習近平国家主席、13日には英国のジョンソン首相と電話会談を行った。14日に日韓首脳電話会談が予定されていたが、1日延びて15日にようやく実現した。就任から11日後のことだった。文在寅大統領は、岸田首相就任日に祝電を送っていたのである。

昨年9月の菅首相就任時には就任9日目に韓国と電話会談を行っており、中国やロシアより先だった。このことから、韓国側では、「岸田政権が菅前政権よりも韓国を外交優先順位の面で後回しにしている」との指摘が出ており、新政権のもとで日韓関係が改善するとの期待が低下している。

自民党総裁選以降、岸田首相の姿勢は経済政策では従来の主張よりも左寄りに振れた感があるが、外交・安全保障政策では逆に右寄りに振れた感がある。

与党大統領候補は対日強硬派

文政権のもとで日韓関係の改善が難しいとなれば、それは韓国では文大統領の任期満了に伴って来年3月に行われる予定の大統領選挙後の新政権にその役割は託される。しかしこの点についても不安が出ている。

文大統領を支える革新系の与党「共に民主党」は10日に、ソウル近郊のキョンギ道の知事を務める李在明(イ・ジェミョン)氏を公認候補に選出した。李氏は、対日強硬派として「韓国のトランプ」と呼ばれている人物である。選出後の演説で李氏は、「日本を追い抜き、先進国に追いつき、世界をリードする国を作っていく」と日本への対抗姿勢をアピールした。同氏が来年3月に大統領となれば、日韓関係の改善はより難しくなるかもしれない。

格差問題への対応が大統領選挙の争点に

革新系の与党「共に民主党」の大統領候補となった李氏は、2022年3月の大統領選で勝利すれば、5年の任期中にベーシックインカム政策を積極的に推進することを公約に掲げている。韓国がアジアで初めて全国レベルのベーシックインカム制度を導入する可能性が出てきたのである。李氏自身は自らを米国の民主党急進左派のサンダース上院議員になぞらえているようだ。

文政権のもとでも格差問題への対応は大きな政治課題であった。同政権は、教育費や住居費の高騰による格差拡大、家計債務の増加、若年層の失業率上昇、世界最高レベルの高齢者の貧困率、世界最低の出生率、といったいずれも深刻な課題に十分対応できなかった。最低賃金の大幅引き上げによる所得の底上げ、住宅価格抑制などに取り組んだが、目立った成果を上げることはできなかったのである。文大統領が就任した2017年以降、高騰を抑えるために少なくとも20の新たな政策措置が講じられたにもかかわらず、マンション価格はほぼ2倍となった。そうしたなか、新型コロナウイルス問題によって格差問題が一気に深刻度を増してしまった。

そこで与党「共に民主党」の大統領候補の李氏だけでなく、保守系の野党候補らもセーフティーネット強化など、財政支出拡大的な主張を強めている。また保守系候補らは、経済格差拡大の象徴である不動産価格高騰の抑制に焦点を当てている。他方で、その財源の議論は取り残されているのである。

財政悪化の下でのバラマキ的な選挙公約は日韓共通

新型コロナウイルス問題をきっかけに、韓国の財政環境は主要国の中で突出して急速に悪化している。国際通貨基金(IMF)は、韓国の政府債務の対GDP比が2020年の47.9%から2026年には66.7%へと18.8%ポイント増加すると予測している。韓国の比率は先進35か国全体の平均122.7%(2020年)と比べて低いが、2026年にかけての上昇幅は最も大きい。これは、韓国の財政拡張傾向がこの先も続く一方、それが成長力強化につながらないことから、同比率が急速に高まるとの見通しである。

厳しい財政見通しの中でも2022年の韓国大統領選挙では、格差問題に焦点を当てバラマキ的な政策論争が繰り広げられそうだ。それは国民の目先の利益に働きかけるポピュリズム(大衆迎合)的でもある。

他方、政府債務の対GDP比などで見る財政環境は、韓国と比較できないほど悪化している日本でも、衆院選では各党が、一律給付金の支給などバラマキ的な政策を競っている感がある。

衆院選では日韓関係は大きな争点になりそうもないが、韓国の状況を見て日本の政策を考え直す「人の振り見て我が振り直す」にならないだろうか。

(参考資料)
「韓国大統領選の与党候補 公約はベーシックインカム」、2021年10月13日、フィナンシャルタイムズ
「【時視各角】新任首相・岸田は変わるだろうか」、2021/10/05 中央日報
「5年後の韓国政府債務、対GDP比66.7%まで増加…先進35カ国で最も上昇か」、2021年10月14日、朝鮮日報

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