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GoToトラベル再開で3.8兆円の景気浮揚効果:再開には慎重な検討も

2021/10/27

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昨年の制度利用の旅行支出は1.2兆円程度

緊急事態宣言が解除され、また全国的に新規感染者数が落ち着きを見せるなか、観光需要の喚起を目指すGoToトラベル事業の再開に向けた議論が、衆院選挙を前に高まりを見せている。

GoToトラベル制度は、1人1泊2万円を上限に旅行代金の半額を政府が補助する仕組みだ。環境庁によると、実施されていた昨年7~12月に延べ8,781万人(速報値)がこの制度を利用したという。その際の支援額は少なくとも5,399億円だ。環境庁の公表数字に基づくいて推計すると、GoToトラベルを利用した旅行の支出総額は、支援金を含み合計で1兆1,663億円程度となった見込みだ。これは、昨年度の名目GDPの0.22%に相当する規模である。

GoToトラベル再開で同制度利用の旅行支出は3.84兆円に

GoToトラベルを、個人の国内旅行費用を単純に半分に引き下げる補助金制度と見なす場合、それは、1年間で消費を8.7兆円も増加させ、1年間の名目GDP(成長率)を1.57%押し上げる計算となる(コラム「東京除外で減少するGo Toトラベルの消費押し上げ効果は1.5兆円程度か」、2020年7月17日)。しかしこれは、GoToトラベルの予算に制限がない場合の1年間の経済効果である。実際には予算には上限がある。

GoToトラベルは昨年12月に停止されたままであるが、昨年度分の予算は今年度に繰り越されている。その額は1兆3,430億円程度とみられる。そこで、GoToトラベルが再開され、この規模の予算が充てられることを前提その経済効果を試算してみよう。

環境庁の公表数字から試算すると、GoToトラベルの利用者は平均で、支援額(補助額)の2.86倍の旅行支出を行ったことになる。仮に同じ制度設計のもとでGoToトラベルが再開され、予算総額が1兆3,430億円である場合には、同制度を利用して3.84兆円の旅行支出(個人消費)が行われる計算となる。これは、1年間の名目GDP(成長率)を0.72%押し上げる計算だ。この試算は、GoToトラベルの再開によって大きな経済効果が生まれることを示唆している。

昨年のGoToトラベルには2つの問題

ただし、大きな経済効果が期待されるからと言って、GoToトラベルを再開することが妥当であるとは筆者は必ずしも考えていない。昨年12月にGoToトラベルが停止されるきっかけとなったのは、新型コロナウイルス感染の拡大だ。GoToトラベルが感染リスクを高めているとの批判が、政府を同事業の停止に追い込んだのである。

昨年実施されたGoToトラベルには、この感染拡大を促した可能性があるという問題に加えて、その利用が比較的高額帯に偏ったという問題があったと考えられる。1人1泊2万円を上限に、旅行代金の半額が補助されるため、普段は利用しない高級旅館・ホテルに宿泊する傾向が生じた。2万円の宿泊では1万円の補助が受けられる一方、1万円の宿泊では5千円しか補助が受けられないことから、やや高額の宿泊に割安感が生じて同制度が利用されやすかったのである。

また、高額の宿泊の利用には、感染リスクを抑える狙いもあった。概して高級旅館・ホテルの方が、しっかりとした感染対策が取られやすいからだ。そのため、比較的高額所得者がGoToトラベルを利用し、比較的規模の大きい事業者がその恩恵に浴するといった2つの偏りが生じたのである。最も支援が必要であった中小・零細事業者が、同制度で十分に支援されなかったという問題があったのだ。

GoToトラベルの再開は本当に必要か

以上の問題点を踏まえると、GoToトラベルを再開する際には、感染リスクが十分に低下したことをしっかりと確認することがまず大前提となる。

そのうえで、利用者や対象事業者の偏りをできるだけ減らすような新たな制度設計の変更も必要だろう。高額の宿泊に利用が偏らないようにするには、例えば、補助の上限を1万円から5,000円に引き下げることも一案なのではないか。

それでも筆者は、GoToトラベルの再開は基本的に必要ないのではないかと考えている。感染リスクが収まっていけば、政府が敢えて補助金で背中を押さなくても、個人は旅行に出かけるからだ。財政環境が極めて悪化しているなか、追加の経済対策はより有効で効率的な資金の使い方をすべきである。

旅行関連、飲食業を中心に十分なコロナ関連支援がなされてきていない面があり、GoToトラベルで個人にお金を使わせるよりも、給付金を通じてよりきめ細かい直接的な支援を行うことを重視すべきでないか。特に経営基盤の弱い零細事業者に配慮した支援の拡充策が重要だ。旅行プランが個人の選択に任されるGoToトラベルでは、そうした支援はできない。

GoToトラベルの再開を議論する前には、その必要性の是非や他の施策との優先順位などについて、まずは慎重な検討を行うことを求めたい。

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