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開幕したCOP26と日本が活路を見出す二国間クレジット制度

2021/11/02

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現状では2030年に排出量は16%増加

10月31日に第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)が英国グラスゴーで開幕した。地球温暖化ガス排出量削減で、中国、インドなど新興国を一段と積極化できるかが最大の焦点となる。しかし、現時点では先進国と新興国との間の根強い対立を解消できる目途はなく、会議を成功裏に終えるかどうかについて見通しは暗い状況だ。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、21世紀中の気温上昇を1.5度以内に抑えるパリ協定の目標を達成するには、2030年時点の温暖化ガス排出量を2010年比で45%削減する必要がある。ところが、国連気候変動枠組み条約事務局が公表した10月25日時点の集計によると、パリ協定を批准した192か国・地域の今の削減目標に基づくと、2030年の世界の排出量は2010年比で減少するどころか16%も増える計算となるのである。

先進国は、概ね2030年時点の温暖化ガス排出量を2010年比で45%削減するペースでの目標を掲げている。そこでCOP26は、概してより消極的な目標を掲げる新興国に対して、先進国が目標をさらに引き上げるよう強い圧力をかける場となる。

中国は2030年の削減目標を変えない

しかし、新興国の間では、すべての国が同じ削減目標を求められるのが公正ではないとの意識が強い。産業革命以降、先進国は大量の地球温暖化ガスを排出しつつ経済を成長させてきた。そうした過去の経緯を考慮せずに、新興国にも同じ削減目標を求めることは、新興国の経済成長を不当に阻害するものだとの考えがある。

さらに、新興国の経済構造は、先進国と比べて地球温暖化ガスの排出が増えやすい製造業の比率が高いこと、その製品を先進国が多く輸入して消費していること、なども考慮に入れるべきと新興国は考えている。

中国は28日に、国連事務局に対して従来と同じ「排出量を2030年までにピークアウトする」と記した文書を提出した。目標を変える考えはないのである。

日本は石炭発電廃止で批判を受ける

ただし、COP26では新興国だけでなく日本も、他の先進国からの強い批判に晒される可能性が高い。議長国の英国のジョンソン首相は9月に、「先進国は2030年、途上国は2040年までに石炭への依存を断つよう求める」と表明している。ところが日本の新エネルギー基本計画の中で示された電源構成では、2030年度の発電の19%を引き続き石炭火力で賄う計画だ。石炭発電に依存する新興国に手本を見せる観点からも日本は早期の石炭発電廃止を求められる(コラム「岸田政権はCOP26を上手く乗り切れるか」、2021年10月28日)。国際エネルギー機関(IEA)によると、現時点で、中国とインドは発電量の6~7割、日本は3割を石炭に依存している。

すべての国は温暖化ガス排出量削減の目標を共有すべきだが、それを達成する手段、道筋については各国の判断に任されるべきなのではないか。日本は、早期の石炭発電廃止の要求を安易に受け入れるべきではないし、実際そうしないだろう。

日本は排出量削減の新たな国際的な取引ルール作りで議論を主導

他方で日本は、先進国と新興国の橋渡しをして、両者間の対立の解消に努める役割を果たすことが期待されている。日本の資金力と技術力を新興国に移転することで、新興国の排出量削減を促すことができる。そうした観点から注目されるのは、COP26での「二国間クレジット制度(JCM:Joint Crediting Mechanism)」のルール作りである。

二国間クレジット制度は、新興国に優れた脱炭素技術等の支援などを行うことで地球温暖化ガスの削減に取り組み、その削減の成果を両国で分け合う制度である。日本からの排出削減への貢献を適切に評価して、日本の削減目標の達成に活用する。2030年度までに排出量を46%削減するという日本の目標は、この制度が前提となっている。新興国での排出量削減を促すとともに、日本の排出量削減にも貢献する一挙両得の制度だ。

この制度は、2015年のCOP21で採択された国際的な枠組みであるパリ協定の条文に盛り込まれたが、具体的なルールは合意できなかった。そこで、そのルール作りが今会議の主要議題の一つとなっているのである。

読売新聞の報道によると、日本政府はこの地球温暖化ガス排出量削減の新たな国際的な取引ルールに関して、独自案を提示する方針を固めたという。日本は、2030年度までの排出量46%削減、2050年度までのカーボンニュートラルという意欲的な目標を掲げているが、その達成は見えていない。地理的な理由などにより再生可能エネルギーによる発電コストが高い日本では、国内で排出量削減を進めるのは簡単ではない。しかし、他国で日本の技術や設備を活用すれば、より低コストで再生可能エネルギーによる発電を行うことができる。それは、地球全体の排出量削減に貢献するのである。

COP21で日本は、石炭発電の廃止について批判を浴びることになるが、新興国での排出量削減を促し、日本の目標削減にも貢献する地球温暖化ガスの新たな国際的な取引ルールに関して、是非とも議論をリードして欲しい。

(参考資料)
「温室ガス削減量取引、COP26で日本が独自案…先進国と新興国の調整役に」、2021年10月31日、読売新聞速報ニュース
「パリ協定達成、中印協調が実効性左右 COP26開幕へ」、2021年10月31日、日経速報ニュース

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