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脱炭素に向けた先進国と新興国それぞれの責務

2021/11/04

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主要新興国のカーボンニュートラルの達成時期は10年~20年遅れ

地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」では、産業革命前からの気温上昇幅を2度未満、できれば1.5度以内に抑えることが目指されている。2度未満にするには2030年時点の地球温暖化ガス排出量を2010年比で25%削減、1.5度以内に抑えるには45%削減しなくてはならない計算だ。現状の取り組みのままでは、逆に16%増えてしまう。

先進国では、2030年までに排出量を50%程度削減、2050年までに実質ゼロとするカーボンニュートラルが既に標準となっている。しかし、主要新興国が掲げる目標は、より低い。中国、ロシア、サウジアラビアなどはカーボンニュートラルの達成時期を、先進国より10年遅い2060年に設定している。中国は、今回の第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)でも従来の目標を引き上げないことを決めた。さらに、11月1日にインドは初めてカーボンニュートラルの目標を公表したが、その達成時期はさらに10年遅い2070年である。

今回のCOP26では、先進国側は新興国側に対して、排出量削減の目標を前倒しし先進国の標準に合わせることを要求するだろう。しかし、新興国側がそれを受け入れる可能性は低い。

先進国に途上国の地球温暖化対策支援を強化する動き

他方、新興国側に排出量削減のさらなる積極姿勢を促す観点から、新興国・途上国への地球温暖化対策支援を強化する動きが先進国にみられている。先進国は2009年に、2020年までに官民で年間1,000億ドル(約11兆円)の途上国気候対策支援を実現すると約束した。しかし、経済協力開発機構(OECD)によると2019年時点での支援額は800億ドルに満たない。COP26の議長国である英国が委託した報告書によると、1,000億ドルの達成は2023年にずれ込む見通しだという。

そこで、COP26を機に、支援を積極化する動きが先進国で見られ始めている。ドイツのメルケル首相は「先進国は特別な責任を負っている。1,000億ドルの約束を守ることが信頼につながる」と述べ、2025年までのドイツの拠出額を年60億ユーロに増額するとした。また、欧州連合(EU)欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、2027年までにEU予算から50億ドルを追加で拠出すると表明した。英政府は環境向けの国際融資を10億ポンド増額させる見通しだ。

さらにバイデン米大統領は1日に、2024年までに米国による途上国への金融支援を従来目標の4倍に増やすと表明した。岸田首相も2日のCOP26での講演で、アジアなどの脱炭素を巡る技術革新に、新たに5年間で最大100億ドルを追加支援することを表明した。6月に決めた今後5年間で600億ドル規模の支援をさらに増額する。

先進国は新興国・途上国側に対して排出量削減を積極化させるように働きかける一方、自らの責務も果たすことが求められる。

2つの目標の達成には異なるアプロ―チ

先進各国は2030年と排出量削減と2050年のカーボンニュートラルの双方の目標を掲げているが、残り時間が10年を切った2030年目標の達成に意識がかなり向けられているようにも見える。

2つの目標の達成には、それぞれ異なるアプロ―チが求められる。2030年にかけて地球温暖化ガスの排出量を削減するには、既存の技術を前提に考えなければならない。そのうえで、例えば日本では、太陽光パネルの設置をできる限り進めるなど、いわば力業が求められる。

他方、2050年のカーボンニュートラルを達成するには、現時点では完成していないまだ初期段階にある技術の開発と活用が必要となる。例えば、次世代電池や、生産過程で二酸化炭素を排出しない「グリーン水素」などの分野である。しかし、その開発の不確実性はかなり高い。民間がリスクをとって研究開発に資源を投入できるよう、政府による資金面での支援が必要だろう。

既存の技術の下での脱炭素の推進と新たな技術開発を民間に強く促す政策のいわば「二正面」作戦を、各国政府は同時並行的に推進していくことが求められている。

(参考資料)
「[FT]COP26、「排出ゼロ」実現への分水嶺に(社説)」、2021年11月1日、フィナンシャルタイムズ
「[社説]「1.5度目標」へ決意と行動迫るCOP26」、2021年10月28日、日本経済新聞電子版
「インド70年に排出ゼロ COP26、途上国支援増額相次ぐ」、2021年11月2日、日本経済新聞電子版
「途上国への資金拠出確保を 欧州各国が相次ぎ増額」、2021年11月2日、日本経済新聞電子版
「脱炭素目標へ「決定的10年」」、2021年11月3日、日本経済新聞

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