脱炭素に向けた世界の金融機関の連携と課題
脱炭素に取り組むグラスゴー金融同盟は総資産1.5京円
現在英国グラスゴーで開催中の国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)では、11月3日にイングランド銀行(BOE)前総裁で国連気候変動問題担当特使を務めるマーク・カーニー氏が、世界の金融業界の地球温暖化対策への取り組みを説明した。カーニー氏は、国連の「グラスゴー・フィナンシャル・アライアンス・フォー・ネットゼロ(ゼロネットゼロのためのグラスゴー金融同盟)」(GFANZ)を主導している。
このグラスゴー金融同盟には、45か国から450以上の銀行、保険会社、アセットマネジメント会社などが参加している。その総資産規模は130兆ドル(約1京4,800兆円)と、世界全体の金融資産の約4割に当たる。金融同盟の金融資産規模は、2年前には5兆ドルに過ぎなかった。
グラスゴー金融同盟は、向こう30年の間にカーボンニュートラル達成に向けた新技術開発に新たな投資を賄うために100兆ドルを生み出すことができる、としている。銀行融資に加えて、ベンチャーキャピタルやプライベートエクイティ(PE)投資会社、ファンドなどによる投資の形で資金が提供される。金融機関は、利益を得ながら脱炭素につながる投資に資金を傾けることになる。
脱炭素で民間金融機関の役割への期待が高まる
ウォールストリートジャーナル紙は、再生可能エネルギープロジェクトや送電網の更新、化石燃料施設の稼働停止といった気候変動を巡る一連の取り組みには、向こう30年で最大150兆ドルが必要になる、とのアナリストの試算を紹介している。グラスゴー金融同盟は、そのうち相当部分の資金供給を担うことが期待される。
先進国は2009年に、2020年までに官民で年間1,000億ドル(約11兆円)の途上国気候対策支援を実現すると約束した。しかし、経済協力開発機構(OECD)によると2019年時点での支援額は未だ800億ドルに満たない。そこで今回のCOP26では、各国が相次いで追加の支援を約束した(コラム「脱炭素に向けた先進国と新興国それぞれの責務」、2021年11月4日)。しかし、政府が脱炭素に向けた取り組みを支援できる規模には限りがある。そこで、民間金融機関に大きな役割を担ってもらおうとの期待が、各国で高まっているのである。
銀行には同意に慎重な姿勢も
カーニー氏が金融機関に求めているのは、国連の環境担当部署が策定した14ページの協定書に記載された措置に同意することである。具体的には、炭素を排出する企業への投融資を控え、環境に優しく持続可能な新技術への支援に振り向けること、毎年目標に向けた進展を報告することなどである。また、銀行には、2050年までに投融資ポートフォリオの炭素排出量を実質ゼロにするとの目標を受け入れることが求められる。
ひとたびこれに同意した銀行には、顧客の地球温暖化ガス排出を抑制するように働きかけ、それに応じない顧客向けの融資などを控えることが求められることになる。顧客との関係維持の観点から、協定書の措置の同意に二の足を踏む銀行も少なくないようだ。
また銀行にとっての懸念は、脱炭素が進まない顧客向けの融資を控えることが訴訟問題につながらないかという点に加え、炭素排出へのエクスポージャーを正確に測定できるのか、進ちょく状況に関する年次報告書を株主がどう受け止めるか、など多くある。
透明性の強化などルール作りになお課題
グラスゴー金融同盟は、脱炭素の実現に向けて意欲的で前向きな取り組みに見えるが、環境保護団体などからは批判も受けている。脱炭素に向けた取り組みが十分ではない金融機関のいわば隠れ蓑になっている面もある、との考えからだ。
その批判の一つは、金融機関は投融資についての脱炭素推進の約束をしている一方、そこにはオフバランスでの活動が含まれていないことだ。具体的には、株式や社債の引受業務は対象とされず、環境負荷の高い企業の資金調達を助けていることである。
2020年時点で、銀行が関わる地球温暖化ガス排出量の65%は、株式や社債の引受業務を通じたもの、との試算もある。
2050年のカーボンニュートラルは、政府、民間が総力を出して取り組まなければ達成できない。その中では、金融機関に期待される役割も大きい。しかし、現時点でなお金融機関の取り組みに対して不信感が残るのであれば、透明性を高め、それを取り除くためのルール作りも必要だろう。
一貫した良質の気候データ、ソブリン・グリーンボンド、サステナビリティに関する情報開示の義務化、気候リスクの監視、強力なグローバル報告基準なども、脱炭素に向けたインフラとして必要だ。政府、金融当局は、この点でより主導的な役割を果たすことが期待されている。
(参考資料)
"Banks under fire for diluting green pledges since Paris climate accord", Financial Times, November 4, 2021
"Financial System Makes Big Promises on Climate Change at COP26 Summit", Wall Street Journal, November 4, 2021
"Mark Carney, Ex-Banker, Wants Banks to Pay for Climate Change", Wall Street Journal, November 1, 2021
「「ネットゼロ金融同盟」の金融資産1京4800兆円に ロンドンは「ネットゼロ金融市場」宣言」、2021年11月4日、ニューズウィーク日本版オフィシャルサイト
「金融機関、脱炭素を後押し=日本含む「1.5京円同盟」―COP26」、2021年11月3日、時事通信ニュース