パンデミックの不確実性と脱炭素が阻む原油価格の安定
OPECプラスは追加増産要請に応じず
原油価格の高騰が続く中4日に開かれた閣僚協議で、石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟の主要産油国からなる「OPECプラス」は、12月の原油の追加増産を見送った。
OPECプラスは、新型コロナウイルス問題で原油需要が急減した昨年、大規模な協調減産に踏み切った。その後、原油需要が回復し価格が上昇に転じたことを受けて、今年8月からは毎月日量40万バレルずつ供給を戻していく(増産)ことで7月に合意した。
原油価格の高騰による経済への打撃を恐れる消費国の日本、米国、インドなどは、OPECプラスに大幅な増産を呼びかけていた。米政府関係者は最近、水面下でサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、イラクに接触し、市場への原油供給量を増やすよう求めていたという。しかし、こうした要請は受け入れられなかったのである。
アンゴラやナイジェリアなどは、油田への投資が不十分で、生産割当量を満たすのが難しい状態にある。そこで閣僚協議でUAEは、生産割り当てを達成できないこうした国の未達分を余力のある他のメンバー国に割り振ることを認める案を示した。しかし、原油価格の急落につながるとして、サウジを含む複数のOPEC加盟国がこの案に反対したという。
消費国の増産要請に応じなかったことについて、ロシアのノワク副首相は閣僚協議後の記者会見で、「世界の原油需要はなお新型コロナのデルタ型に圧迫されている」と述べている。感染の新たな拡大で原油需要が落ち、原油価格が急落することを警戒しているのである。
パンデミックに関わる大きな不確実性
3日にテーパリング(資産買い入れの段階的縮小)を決めた米連邦準備制度理事会(FRB)などの各国金融政策の正常化と同様に、OPECプラスの原油生産も、新型コロナウイルス問題を受けた緊急対応を解除して、次第に正常化へと向かっている。しかし、大幅増産後に感染再拡大を受けて原油需要が急減し、原油価格が急落してしまうことを、産油国は恐れているのである。
それは例えば米国のシェールオイルについても同様だろう。エネルギー企業が資金を新規投資に投じ、シェールオイルの増産に踏み切った後に原油価格が急落すれば、大きな損失を被ってしまう。
このように、新型コロナウイルス問題とその経済活動への影響が依然として大きな不確実性に支配されていることが原油価格の安定を阻んでいるのである。
脱炭素の潮流も原油価格の安定を阻む
そしてもう一つ、原油価格の安定を阻む要因となっているのが、世界規模での脱炭素の潮流だろう。各国が脱炭素を進める中、長い目で見れば原油を含む化石燃料への需要は落ちていく。それを見越して、今のうちにできるだけ高い価格を維持して収益を上げておきたいとOPECプラスは考えているのではないか。
さらに米国では、シェールオイルを増産するための新規の投資は、脱炭素という国の方針に反してしまう。また将来、脱炭素の進展による需要減で原油価格が下落すれば、企業は投資分を回収できなくなる可能性がある。結果としてシェールオイルの供給も増えにくい。
このように、足元での原油価格の高騰は、パンデミックと脱炭素という、まさに100年に一度の2つの大きなイベントが重なることで生じている面がある。そのため、今の事態は容易には変わらず、原油価格の高騰は非常に根深い問題となっている。
(参考資料)
"OPEC, Russia Stick to Gradual Oil Production Boost", Wall Street, November 5, 2021
「OPECプラス、追加増産見送り―日米の要求受け入れず」、2021年11月5日、共同通信ニュース