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BOEショックと利上げを巡る各国中銀のスタンスの違い

2021/11/08

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BOEショックで各国の金融政策の正常化見通しも見直される

英イングランド銀行(中央銀行,BOE)は11月4日に、市場の大勢の見方に反して利上げ(政策金利の引き上げ)を見送った。政策金利を過去最低の0.1%に据え置く一方、予想通りに経済が推移すれば、「物価上昇率を目標とする2%に持続的に戻すため、今後数か月で利上げが必要になるだろう」との見解を示した。今回の政策金利の据え置きは、委員の採決により7対2で決まった。他方、国債買い入れプログラムの継続は6対3で決まった。

この決定が世界の金融市場には思わぬ大きな影響を与え、BOEショックと言える状況を生みだした。ポンドが大きく下落し、英国国債の利回りが大幅に下落したのは当然のことだが、影響は英国市場にとどまらず、欧州市場、米国市場、そして日本市場でも金利の低下傾向が見られた。

主要国での今後の金融政策の正常化、利上げ開始の時期やそのペースに関する見方が、BOEの決定で再度見直されることになったのである。

利上げ時期には大きなばらつき

そこまで他国の金融政策の見通しに大きな影響を与えたのは、BOEが主要中央銀行の利上げの先陣を切っている、とのイメージを持たれてきたからに他ならない。今後の利上げの時期については、BOE、米連邦準備制度理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)、日本銀行の順番となることが、金融市場のコンセンサスとなっている。

米連邦公開市場委員会(FOMC)のメンバーが9月に示した見通しでは、2022年末までに1回の利上げが想定されている。他方、ECBのラガルド総裁や理事らからは、利上げの環境は来年では整わない、との見通しが示されている。日本銀行については、利上げの時期は現時点では見通せない状況だ。他方、オーストラリア準備銀行(中央銀行)は5日公表した金融政策に関する四半期報告で、最初の利上げ時期は2024年になる可能性が高い、との認識を明らかにしている。

BOEが利上げで先頭を走る背景は

BOEが今回利上げを見送るまで、先物市場では、11月に0.15%の利上げ、12月に0.25%の利上げ、2022年に3回の利上げが織り込まれていた。そして、2022年末の政策金利は1.25%程度と織り込まれていた。会合後でもなお、2022年末の政策金利は1.0%程度と予想されている。

10月時点でBOEのベイリー総裁は、期待インフレ率の上昇を警戒しており、インフレリスクの高まりに対して躊躇なく利上げする考えを示唆していたことが、11月の会合で金融市場が利上げをほぼ完全に織り込むきっかけとなった。

しかし、BOEが主要中銀の中で、利上げ策で先頭を走り、他の中銀の利上げ策にも大きな影響を与える、との見方を市場が強めた背景は、ベイリー総裁が明らかにした政策姿勢によるものだけではない。

第1に、英国の消費者物価上昇率は前年比+3%超と、米国の+5%程度、ユーロ圏の+4%程度ほどではないが、かなりの高水準となっている。第2に、FRBの使命には物価の安定と共に雇用の拡大もあるが、BOEは物価の安定だけが主要な使命となっており、よりインフレファイター的なイメージを現局面では持たれている。第3に、FRBは昨年、ECBは今に、それぞれインフレ目標政策を修正し、物価上昇率の上振れを容認する方針を示している。BOEはそうした政策修正を行っていないのである。

急にハト派姿勢に転じたBOEに市場は困惑

BOEが今回利上げを見送っただけでなく、金融市場の先行きの利上げ観測をけん制する姿勢を見せた。政策金利が金融市場の織り込む経路をたどった場合、2024年終盤の物価上昇率は、BOEが掲げる2%の目標から下振れてしまうと説明したのである。つまり、市場の利上げ観測は行き過ぎた、との強いメッセージを送ったのである。

BOEあるいはベイリー総裁は、今回急にハト派姿勢に転じた印象がある。物価上昇率は一時的であるという認識でFRB、ECBと足並みを揃え、通貨高リスクを高めるBOEの利上げ姿勢が突出しているとの観測を打ち消したかったのかもしれない。

しかし、こうしたBOEの豹変ぶりは、金融市場を大いに混乱させることになったのである。この点で、BOEの市場との対話については課題を残したと言えるだろう。

先行きの利上げを巡る大きな不確実性

このBOEショックによって、BOEのみならず他の中央銀行の金融政策の見通しについても、金融市場では不確実性が高まることになった。それは、FRBが3日にテーパリング(資産買い入れの段階的縮小)を決め、金融政策を巡る不確実性の一つが消えた直後のことだった。

過去の金融政策の正常化の局面と比べても、各中央銀行の政策には大きな乖離が目立ち、さらに先行きの政策の不確実性は大きい。それは、パンデミック下での経済情勢という、予見不能の大きな不確実性に根差しているのである。

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