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子供への給付金の経済効果とその課題

2021/11/08

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18歳以下の子供に10万円の支給は個人消費を7,690億円押し上げる

岸田政権及び自民党は、11月19日に発表する予定の経済対策の柱となる個人向け給付金制度の議論を進めている。自民党内では18歳以下の子どもに1人当たり10万円を支給する案を支持する声が強まっている、と報じられている。この案は、連立与党の公明党の意見を受け入れるものである。

自民党自身はより対象を絞る考えを示していたが、公明党は衆院選挙で公約に掲げていた0~18歳のすべての子どもに一律10万円相当を支給する「未来応援給付」の採用を、自民党に強く要求しているとみられる。

2021年10月時点での人口推計(総務省統計局)によると、0歳から19歳の人口総数は2,034万人である。0歳から18歳までの人口は1,923万人程度と推定される。仮に18歳以下の子供に1人10万円を支給する場合、その予算は1兆9,200億円程度となる。子供に給付するといっても、その使途は親が決めるのが一般的であり、実質的には子供がいる世帯への給付金と言える。

ところで、2009年に実施された定額給付金についての内閣府の分析によれば、子供がいる世帯では給付額の40%が消費に回された。この分析結果を用いると、仮に18歳以下の子供に1人10万円を支給される場合には、それは個人消費を7,692億円押し上げる計算となる。これは、年間のGDPを0.36%、個人消費を0.67%押し上げる効果を持つ。

既存の社会保障制度を十分に機能させたうえで対象を絞った給付が適切

18歳以下の子供に10万円の給付金の経済効果についての試算は以上の通りであるが、その給付方法には問題があると言わざるを得ない。

給付金はコロナ対策の一環との位置づけであるが、子供がいる世帯は、新型コロナウイルス問題で所得が減少した世帯ばかりではない。世帯主などが、新型コロナウイルス問題が追い風となる業種で働いており、むしろ所得が増えている世帯も少なくないはずだ。子供を持っている世帯を広く給付対象とすれば、新型コロナウイルス問題で大きな打撃を受けている世帯を集中的に救済することにはならず、また、新型コロナウイルス問題で拡大した所得格差を縮小させることにもならない。

支援の対象は、新型コロナウイルス問題で所得が大幅に減った労働者、あるいは世帯に絞るべきだ。子供ではなく、親の所得環境の変化を給付対象を決める際の基準とすべきではないか。

子供がいる世帯は概して生活弱者であるとの認識があるのかもしれないが、それはコロナ対策ではなく、既存の社会保障制度で対応すべき問題だ。そうしたセーフティーネットの制度がコロナ禍の下でうまく機能していないのであれば、それをまず機能させるようにすることが優先課題だ。そして、既存の社会保障制度、セーフティーネットで十分に対応できない分についてのみ、一時的なコロナ対策として給付制度の導入を検討する、というのが本来のあり方ではないか。

一時的な所得である給付金は貯蓄に回る比率が高い

さらに、給付金の経済効果についても、期待したほど大きくはならない可能性が考えられる。上記の経済効果の計算では、子供がいる世帯では給付額の40%が消費に回された、という2009年に実施された定額給付金についての内閣府の分析を用いた。一方、世帯全体では給付金のうち消費に回された割合はわずか25%と推定されている。

子供がいる世帯でこの割合がかなり高くなることの根拠は明らかではない。統計上の精度の問題も小さくないだろう。実際には、消費に回された割合は世帯全体での推計値である25%に近い可能性も十分に考えられるところだ。その場合には、個人消費の押し上げは4,800億円にとどまる。

給付金のように一時的な所得は、月例給のように経常的な所得と比べて貯蓄に回る比率が高くなる。昨年に一律給付金が実施された場合と比べて、感染リスクが低下している分、給付金が個人消費に回る割合がより高くなる、と考える向きもあるのかもしれないが、その考えには根拠はない。

以上のような様々な問題を考慮に入れた場合、コロナ対策としての給付金は、新型コロナウイルス問題で所得が大きく減った個人、世帯に対象を絞ったものとするのが適切だ。岸田政権及び自民党は、慎重な議論をさらに進めて欲しい。

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