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世界の金融機関と企業の脱炭素コミットメントに厳しいチェック

2021/11/10

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グラスゴー金融同盟のコミットメントに批判の声も

英国グラスゴーで開催中の国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)では、イングランド銀行(BOE)前総裁のマーク・カーニー氏が主導する国連の「グラスゴー・フィナンシャル・アライアンス・フォー・ネットゼロ(ゼロネットゼロのためのグラスゴー金融同盟)」(GFANZ)の脱炭素の向けた取り組みが注目を集めている。

このグラスゴー金融同盟には、45か国から450以上の銀行、保険会社、アセットマネジメント会社などが参加している。その総資産規模は、世界の金融資産の40%に相当する130兆ドル(約1京4,800兆円)である。これが、向こう30年の間にカーボンニュートラル達成に向けた新技術開発に新たな投資を賄うために100兆ドルを生み出すことができる、と説明されている(コラム「脱炭素に向けた世界の金融機関の連携と課題」、2021年11月5日)。

ただし、グラスゴー金融同盟の脱炭素のコミットメント(約束)については、称賛ばかりでなく、環境保護団体や学者などから批判も寄せられている。金融機関が、脱炭素に向けた取り組みを世界にアピールし、レピュテーションを高める機会を得ている一方、その実効性については不確実なところが大きいこともあり、コミットメント(約束)がいわば空手形になっているという懸念があるためだ。

一種のグリーンウォッシュとの指摘も

その批判の一つは、短期的な目標と具体的な行動が十分に示されていないことである。2050年までの遠い先の目標を示すのは簡単だが、短期の目標がなければ、その達成に近付いているかどうかの検証が外部からはされにくい。これは一種のグリーンウォッシュであり、見せかけだけのごまかしに近い、と批判する向きもいる。

フィナンシャルタイムズ紙によると、オックスフォードのベン・カルデコット氏は、グラスゴー金融同盟は130兆ドルと巨額の金融資産を有していることをアピールしているが、その中には住宅ローンなども含まれており、簡単に脱炭素に貢献する資産を移すことはできない部分もある、と指摘する。

また、130兆ドルには二重計上(ダブルカウント)があるとの指摘もある。例えば年金資金については、グラスゴー金融同盟に参加する各種年金基金とそこから運用を委託された金融機関の双方で二重に計上されているという。グラスゴー金融同盟自身も二重計上の問題があることを認めている。

グラスゴー金融同盟の参加者には、新たな天然ガス、原油、石炭の開発を行う企業への融資を続けている銀行が含まれている点も批判の対象となっている。

このような様々な批判に応えて、グラスゴー金融同盟は脱炭素のコミットメントを十分に果たせない金融機関を、同盟から外す仕組みを検討していることを明らかにしている。

企業が設定した目標にも厳しい視線

他方、企業の間で広がる脱炭素のコミットメントについても、同様な批判が生じている。米国の例を見てみよう。

ウォールストリートジャーナル紙によると、S&P500種指数構成銘柄のうち、炭素削減目標を設定している企業の割合は昨年末時点で3分の2にも上った。しかし、それらの目標は進捗状況の追跡が難しいのである。ボストン・コンサルティング・グループが10月に公表した大企業を対象とする調査では、過去5年間に排出削減目標を達成した企業は全体の11%にとどまっている。

投資家やアクティビストは企業が設定した目標自体に厳しい視線を向けており、排出量の多い企業やその取引銀行に対して一段と高い目標を定めるよう圧力を強めている。米証券取引委員会(SEC)も、企業に目標達成に向けた進ちょく状況の報告を義務づけることを検討している。

ユナイテッド航空は「ファースト・ムーバーズ・コアリション」と呼ばれるグリーン技術を支持する新たな連合に加わった。このグループに加盟する航空会社は、航空業界最大の温暖化ガス排出源であるジェット燃料の少なくとも5%を、2030年までにバイオ燃料に切り替えることを約束している。またユナイテッドは独自に2050年までに炭素排出量を実質ゼロにする長期目標「100%グリーン」を掲げており、この目標はその中間地点となる。

ただし、2050年の長期目標の達成には、まだ効果が実証されていない炭素回収技術が成功することなどが前提となっている。他方、ユナイテッドの炭素排出量は2019年までの5年間に3,800万トンから4,200万トンにむしろ10%増加しており、実績と目標がかい離している。

米石油大手コノコ・フィリップスは、米石油・ガス会社で初めて、事業から排出される炭素排出量を2050年までに実質ゼロにする目標を掲げた。しかし投資家は今年、その目標は十分ではないと主張した。株主総会では、コノコの燃料を使用して顧客が排出する温暖化ガスの排出削減も約束する「スコープ3」の目標設定を義務づける株主提案が可決されたのである。

目標の信頼性を高めるためのさらなる情報開示の強化が必要

世界的な脱炭素の機運が高まる中で、金融機関や企業は、意欲的な排出量削減目標を掲げるようになっている。それ自体は前向きな動きではあるが、一方で、その目標を達成する本気度、達成の具体的な方策、達成の前提となる条件などに対する外部からのチェックの目も同時に厳しくなっているのが現状だ。積極的な目標を掲げるのは、企業のレピュテーションを高めることが最大の狙いであり、ポーズだけに終わってしまうリスクも指摘されている。

脱炭素に向けた意欲的な目標を掲げることに続いて企業や金融機関に求められるのは、その目標の信頼性を高めるためのさらなる情報開示の強化だろう。掲げた目標を達成するための具体的な方策、その実現可能性の変化、目標達成に向けた実績の報告などの情報を、随時積極的に開示していくことが求められる。

当局は、そのための基準作りを進めるとともに、必要に応じて情報開示を義務付けること、あるいは罰則を設けることなどの検討を進めていくことが必要だろう。

(参考資料)
"Greenwashing suspicions surface over Carneys 130tn dollar net zero commitment", Financial Times, November 5, 2021
"Climate Promises by Businesses Face New Scrutiny", Wall Street Journal, November 6, 2021

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