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金融市場が気を揉むFRB議長の指名

2021/11/11

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近付くFRB議長の指名

来年2月に任期を迎える米連邦準備制度理事会(FRB)パウエル議長の再任あるいは後任指名の時期が近付いている。政府が指名した議長の就任には上院の承認が必要で、それには一定の時間が必要であることから、過去の例では10月あるいは11月初旬頃に政府が指名することが多かった。前回は2017年11月2日に、当時のトランプ大統領がイエレン前議長を再任せず、パウエル現議長を指名した。

バイデン大統領は11月2日にFRB議長の指名について、「そう遠くない時期に発表されるだろう」と述べている。さらに5日までに、パウエル議長とブレイナード理事にそれぞれ面会しており、指名の時期が近付いていることが伺われる。候補者はこの2人にほぼ絞られてきている。女性のブレイナード理事は民主党政権で財務省高官などを歴任し、2014年にFRB理事に就任した。

当初は、コロナショックへの対応などで手腕を見せたパウエル議長の再任でほぼ確定との見方が強かった。しかしそれが揺らぐきっかけとなったのは、連銀高官による資産取引の問題だ。大規模な金融緩和が実施された2020年に米ボストン連邦準備銀行のローゼングレン総裁とダラス連銀のカプラン総裁は不動産投資信託(REIT)や株式を売買していたことが、資産公開で明らかになった。金融政策を決める職務の中立性の観点から問題と批判されたことを受けて、両氏は今年9月27日に共に辞任を表明した。パウエル議長はこの問題で責任が問われている(コラム「連銀総裁の投資問題はFRBの金融政策やパウエル議長の再任にも影響か」、2021年9月29日)。

民主党急進左派はブレイナード理事を支持

さらに、パウエル議長の金融政策運営の手腕ではなく、金融規制の手腕に問題あり、との批判が民主党急進左派から出ている。トランプ政権下で、金融規制を緩和し過ぎたなどとの批判がある。また、格差問題への対応が十分ではなかった、との批判もある。パウエル議長の再任に難色を示す民主党急進左派が推すのが、ブレイナード理事である。

金融政策でブレイナード理事はパウエル議長よりもややハト派であるが、大きな違いはない。大きな違いは、パウエル議長が共和党員、ブレイナード理事は民主党員であることだ。トランプ前大統領が、民主党員のイエレン前議長を再任せず、共和党員のパウエル議長を指名したことのいわば仕返しもあって、民主党急進左派は、共和党員のパウエル議長を民主党員のブレイナード理事に替えたいと考えているのかもしれない。

金融市場の安定に配慮すればパウエル議長再任

ただし、金融市場の安定や政治的な要素を踏まえると、パウエル議長が再任される可能性は相応に高いように思われる。11月3日にFRBは資産買い入れの段階的縮小、いわゆるテーパリングを開始した。しかし今後の正常化の行方、特に、今後の物価動向などに左右される政策金利の引き上げ時期などについてはまだ見えていない。このように、FRBの金融政策が非常に微妙な局面にある時、そのかじ取りを担う議長が交代することを、金融市場は大いに不安に思う可能性がある。そのため、金融市場の安定の観点からは、パウエル議長の再任が穏当な判断となる。

さらに、大統領が指名した議長が民主・共和が拮抗する上院でなかなか承認されない事態となれば、やはり金融市場の攪乱要因となってしまうだろう。この点から、バイデン大統領は超党派で支持されやすい議長を指名する可能性が考えられる。それは、パウエル議長である。民主党急進左派はパウエル議長の承認に反対するだろうが、大半の民主党議員と共和党議員は賛成するだろう。他方で、ブレイナード理事を指名した場合には、民主党議員の中では承認に反対する者もでてくるだろう。さらに共和党議員は、左派色が強いとして承認に反対する者が多いだろう。その場合、民主・共和が拮抗する上院では、過半数の賛成を得られない可能性が出てくるのである。

政治色が強い議長の指名問題

指名を見直す事態となれば、バイデン大統領には大きな政治的失点となる。6日にバージニア州の州知事選で共和党に敗れて大きな打撃を受けたばかりのバイデン大統領にとっては、政治的失点を重ねたくないことは言うまでもない。

金融監督を担ったクォールズ副議長は、来月に辞任する考えを示している。また、もう一人の副議長であるクラリダ氏の副議長としての任期は来年1月に切れる。バイデン大統領はパウエル議長を再任したうえで、ブレイナード理事を2人の副議長のどちらかの後任に指名する、というのが現時点で最も可能性が高いシナリオだろう。

ただしこれは未だ確定ではないことから、FRB議長の指名を巡って、金融市場が気を揉む時期がまだ続くことになるだろう。

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