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米中が気候変動対策でサプライズの共同宣言

2021/11/12

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米国と中国が気候変動対策で協力を演出

英グラスゴーで開かれている国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)がいよいよ大詰めを迎える中、10日に米国と中国が気候変動対策で協力を強化するとした共同宣言を発表した。数値目標など具体的な内容は乏しい印象があるが、米中がこの分野で協力する姿勢を広く世界にアピールするという演出をした点に最大の意味があるだろう。

人権、安全保障、先端産業、貿易など広い分野で中国への対抗姿勢を強める米バイデン政権も、環境分野では中国と協力の道を探る考えを、政権発足時から示してきた。両国の対立がいたずらに激化し、後戻りができない状況になることを回避するためにも、協力できる分野では協力を確認することは両国にとってメリットがあることだ。

また、地球温暖化ガス排出量の世界第1位の中国と第2位の米国が、気候変動リスク対応で協力する姿勢を確認したことは、排出量削減に向けた世界的な気運を一段と高める効果があるだろう。

メタン排出量の抑制・削減で協力

共同声明では、2030年までの10年間、両国が対策を加速し、気候変動リスク対応に取り組むことで合意した。2030年までの10年間、双方が対策を加速し、COPを含む多国間プロセスにおける協力を通じ、気候危機に取り組む。

具体的な協力分野は、2020年代の排出量削減に関する規制と環境基準、クリーンエネルギーへの移行がもたらす社会的利益の最大化、最終消費分野の脱炭素化と電化を促進する政策、循環型経済に関する分野、二酸化炭素(CO2)回収・有効利用・貯留(CCUS)技術である。

2020年代に両国は、温室効果ガスの一つのメタンの排出を抑制・削減する行動を強化し共同研究を促進する。次回COP27までにメタン排出量削減を強化するための追加措置を策定する。この点で、米中は2022年前半に会議を開催する。

共同声明の中で最も注目を集めたのは、メタン排出量の抑制・削減である。今回のCOP26では、米欧が主導して100以上の国・地域が2030年までにメタン排出量を2020年比で30%削減する目標に合意した。しかしその枠組みに中国は参加していない。共同声明では、このメタン排出量の抑制・削減の取り組みで、中国に具体的な対策強化を義務づけるような言及は避けており、これによって中国側に受け入れの余地ができたとみられる。中国は共同宣言の中で、メタンに関する中国独自の行動計画をつくると表明したが、同合意に参加するかどうかは明言していない。

先進国と新興国との間の対立を浮き彫りにした面も

中国は第15次5カ年計画(26~30年)で石炭消費量を段階的に削減し、これを加速するため最善の努力をするとされた。ただしこれは、従来からの主張の範囲内である。共同声明を策定する過程で、米国側は地球温暖化ガスの排出量を2030年までに減少に転じさせ、2060年までに実質ゼロにするという従来の中国の目標を前倒しすることを求めたという。しかし、中国側はそれに頑として応じず、共同宣言には盛り込まれなかった。

中国側はこの共同宣言について、「異なる国情を考慮するという基礎に基づき行動を展開」するものだと強調している。温暖化は先進国がその原因を作ったもので、地球温暖化削減の取り組みでは先進国と新興国が同じ目標とすべきではない、という新興国側の見解を滲ませた発言だ。

この共同声明には、先進国と新興国との間の認識の差と対立の構図を改めて浮き彫りにした側面もあるようだ(コラム「脱炭素に向けた先進国と新興国それぞれの責務」、2021年11月4日)。

(参考資料)
「米中、共同宣言で「協調」演出 温度差も」、2021年11月11日、産経新聞速報ニュース
「<COP26>米中が電撃の「グラスゴー共同宣言」、成功に向けて大きな一歩」、2021年11月11日、ニューズウィーク日本版オフィシャルサイト

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