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多くの課題を残したまま閉幕したCOP26

2021/11/15

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平均気温1.5度を目標に格上げ

英国で開かれていた国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)は、13日に成果文書を採択し閉幕した。成果文書の採択では各国間の意見の調整が難航し、協議は当初予定よりも1日延長された。

成果文書では「1.5度目標」を実現するため努力を追求すると、その目標が明記されたことが大きな前進とされている。2015年に採択されたパリ協定では、「産業革命前と比べた世界の平均気温上昇を2度未満、できれば1.5度に抑える」との目標を掲げられた。2度未満が目標で、1.5度は努力目標との位置づけだった。

国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第1作業部会は、1.5度の気温上昇で熱波や豪雨、干魃の発生頻度が高まる試算結果を公表した。これを受けて議長国の英国は、「1.5度目標」を成果文書で強調することをCOP26の最優先課題と位置付けていたという。

これは確かに前進であり、今回のCOP26を特徴づける成果と言えるかもしれない。しかし、これを採択したことで、世界の地球温暖化対策がどの程度進むのかは明らかではない。具体的な数値目標については、今回のCOP26は全体として大きな成果を欠いたと言えるのではないか。

また、成果文書では、石炭火力の廃止についても大いに注目された。議長国の英国は、二酸化炭素排出量が多い石炭火力について、「段階的な廃止」という表現を成果文書に盛り込むことを最後まで目指したが、発電コストの安い石炭火力を主要電源とするインドの代表が、石炭火力の廃止を強硬に反対した。最終的には、インドが提案した「段階的な削減」という表現で妥協が成立したのである。

先進国と途上国・新興国との対立は簡単には解消されない

このように今回の会合では、先進国と途上国・新興国の間の対立が目立った(コラム「脱炭素に向けた先進国と新興国それぞれの責務」、2021年11月4日)。先進国は2050年のカーボンニュートラル、2030年までの地球温暖化ガス排出量の50%程度の削減で足並みはほぼ揃ったが、途上国・新興国はそうではない。世界最大の排出国の中国は、2060年カーボンニュートラルという従来の目標を変えなかった(コラム「米中が気候変動対策でサプライズの共同宣言」、2021年11月12日)。新たにカーボンニュートラルを示したインドも、目標達成時期は先進国よりも10年遅い2060年である。

先進国が途上国・新興国に地球温暖化対策を積極化させるように圧力をかける、というのがCOP26の基本構図だ。しかし先進国も批判を受けた。先進国が2020年までに途上国などの気候変動対策に年間1,000億ドルを支出することが合意されていたが、それは達成されていない。その達成は2023年にずれ込む見込みであり、この点で途上国から先進国には不快感をあらわにする発言も目立ったのである。

このように、地球温暖化対策を巡る先進国と途上国・新興国の間の対立は根深く、2週間の会合などでは容易に解消されないことが、改めて明らかになった。

石炭火力発電では日本も批判を浴びる

他方、日本も他の先進国からの批判を浴びた。欧州を中心に多くの国が石炭火力発電の早期廃止の姿勢を打ち出す中、日本は石炭火力発電の比率を下げていく方針ではあるものの、具体的な廃止の目標は打ち出していない。2030年度でも発電全体の2割弱を石炭発電で賄う計画だ(コラム「岸田政権はCOP26を上手く乗り切れるか」、2021年10月28日)。この点では、インドや他の途上国、新興国とも利害が一致している面がある。

地球温暖化対策に向けては、国毎に置かれた環境が大きく異なる。カーボンニュートラルの達成時期などはできる限り各国が共有すべきかもしれないが、その達成の手段は、各国ごとの判断に任せるべきではないか。発電手段も含めてすべての国が同じ目標、方針を持つべきとする、先進国特に欧州諸国の考え方には無理があるように思われる。この点も、今回のCOP26で浮き彫りになった課題だろう。

そして、石炭火力などでは途上国、新興国と利害が一致する面がある日本は、今後は、地球温暖化対策に向けて、先進国と途上国、新興国との橋渡し役を果たしていくことも期待されるところだ。

グリーンウォッシュとの厳しい批判も

今回のCOP26の会場の外では、グリーンウォッシュ(うわべだけ、ごまかしの環境対策)という言葉が、NGOなどから多く聞かれた。地球温暖化対策に積極姿勢を強調しても、実際にそれを達成できるめどは立っておらず、他国からの批判をかわす一時しのぎの対応になっている、との批判である。日本でも、2030年度の排出量46%削減、2050年度のカーボンニュートラルは、ともに達成のめどは立っておらず、達成に向けた具体的な方策、道筋は示せていない。

今回のCOP26では、世界の金融業界も地球温暖化の推進に積極的な姿勢を示した(コラム「脱炭素に向けた世界の金融機関の連携と課題」、2021年11月5日)。しかし、彼らも同様にグリーンウォッシュとの批判を浴びたのである(コラム「世界の金融機関と企業の脱炭素コミットメントに厳しいチェック」、2021年11月10日)。

各国からかなり先の目標を引き出し、積極姿勢を表明させる従来型のCOPのやり方では、地球温暖化対策の実効性は必ずしも担保されないのではないか。目標よりも具体的方策、そして対策の進捗を随時確認する仕組みの構築などを、今後はより重視していく必要があるのではないか。

COPにおける基本的な戦略、方針を全体的に大きく見直す時期に来ているようにも思われる。このように多くの課題を残して、COP26は閉幕したのである。

(参考資料)
「パリ協定の努力目標「格上げ」 COP26、達成に不安も」、2021年11月14日、産経新聞速報ニュース

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