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経済対策の財政支出規模は40兆円超:規模ありきの対策で財源議論はまた素通り

2021/11/15

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経済対策で事業規模と財政支出の違いは?

政府は19日に経済対策を取りまとめる予定だ。報道によれば、その経済対策の規模は財政支出ベースで40兆円超となる見通しだという。

経済対策の規模には幾つかの種類があり混乱を招きやすい。昨年12月8日に公表され、昨年度第3次補正予算編成へとつながった経済対策、「国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策」を例にとってみよう。その事業規模は73.6兆円程度だった。他方、財政支出の規模は40.0兆円程度であった。

事業規模には、国・予算に計上され直接付加価値を生むもの以外に、政府系金融機関による融資保証などの金融事業が含まれる。それらは、直接的に付加価値を生むものではない。

さらに、財政支出は大きく2つに分かれる。32.3兆円程度の国・地方の歳出と7.7兆円程度の財政投融資計画である。財政投融資計画は政府の投融資事業であり、やはり直接付加価値を生むものではない。

国・地方の歳出のうち、国の分が補正予算に対応するもので20.1兆円だった。その内訳は、一般会計19.2兆円、特別会計1.0兆円である。昨年12月の経済対策では、補正予算の規模は事業規模の約4分の1(27%)、財政支出の半分(50%)の割合だった。

現時点での大まかな目途では経済効果は7兆円程度か

今回の経済対策の規模が財政支出で40兆円超だとすれば、それは前回並みということになる。前回の実績から計算すれば、補正予算の規模のめどは20兆円超程度となる。

その内訳の詳細は現時点では明らかではないが、仮にこのうち6兆円が個人への給付(子ども給付、ポイント付与、低所得者向け給付、非正規給付、学生給付など)、3兆円が中小企業への給付、3兆円が投資関連、8兆円がその他とする場合、経済効果の大まかな見立ては現時点で7兆円程度となる。これは1年間のGDPを1.3%程度押し上げる計算だ。

ただし、補正予算の中に年度を越えて長期間にわたる支出となる基金への繰り入れが盛り込まれる場合には、短期的な経済効果はその分小さくなる。

日本経済新聞の報道によると、政府は18歳以下への給付に2兆円弱、コロナ禍の影響を受けた中小企業への給付に3兆円程度、大学ファンドに財政投融資で約5兆円をあてる見通しだ。さらに、その他のコロナ対策、成長・分配政策、気候変動対策、原油価格高騰への対策などが盛り込まれる見通しだという。

規模ありきの経済対策に

岸田首相は自民党総裁選の段階から、数10兆円規模の経済対策実施を一貫して公約に掲げてきた。事前には30兆円程度との見方が比較的多かったが、実際には財政支出規模でそれを上回る40兆円超になりそうだ。

補正予算には、当初予算編成時には予見できなかった大きな環境変化に応じた緊急性の高い支出を盛り込むのが本来の考え方だが、実際には、規模の大きさを野党と競い、規模の大きさで国民に積極姿勢を印象付ける「規模ありきの経済対策」となった感が否めない。

経済対策の必要規模に関連して、今までも何度もその根拠として指摘されてきたのが需給ギャップの規模である。しかし、それは非常に有害な議論だろう。需給ギャップを経済対策の必要規模の根拠とすることの問題点は、第1に精度の問題だ。内閣府は4-6月期の需給ギャップを年率22兆円と試算している。他方で日本銀行は約7兆円と試算している。どちらが正しいとは簡単には言えない。推計方向が異なると、このように試算結果にも大きな違いが出てくるのである。

需給ギャップはあくまでも推計値であり、その精度は高いとは言えない。従って、需給ギャップの試算値を根拠に経済対策の必要規模を主張する、あるいは正当化するのはおかしいのである。ちなみに、経済対策を議論する際に、需給ギャップの規模が小さい日本銀行の推計値については誰も言及しない。

第2に、景気の変動と共に需給ギャップは常に変化するのが自然であり、それをゼロにすることを目指す経済政策が望ましいと考える根拠はない。需給ギャップがマイナスの時には、それを経済対策の必要性の根拠とする議論が高まる一方、需給ギャップがプラス、つまり実際の実質GDPが潜在GDPを上回る局面では、増税によって需給ギャップを解消しようとの議論は全く出てこないのもおかしな話だ。

第3に、既にみてきたように、経済対策の経済効果、つまりGDPの押し上げ効果は、その事業規模、財政支出規模、補正予算規模とは大きく異なる。この点を踏まえると、やはり需給ギャップの規模で経済対策の規模を決めることは全くおかしいのである。

今回も財源議論は素通りに

一方、今回の経済対策でも、いわゆるコロナ対策の財源の議論は素通りとなりそうだ。予算の付け替えや予備費の活用などで、国債の新規発行額を抑える取り組みはなされるだろう。しかし、付け替え前の予算や予備費なども国債発行で賄われたものであることから、国債以外の新たな財源を確保することにはならない。

コロナ対策を国債発行で賄い続けることは、その負担を将来世代に転嫁することに他ならない。それは世代間の不公平感を生むばかりでなく、将来の需要を先食いすることになるため、将来の成長期待を低下させてしまう。そしてそれは企業の設備投資、雇用、賃金の抑制につながり、現在の経済の潜在力を一段と低下させてしまうことになるだろう。

コロナ問題発生から2年が経過しようとしているなか、巨額のコロナ対策の財源の議論が未だに始められる気配さえないことは、非常に残念なことである。

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