フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 日銀が特別当座預金制度を見直し

日銀が特別当座預金制度を見直し

2021/11/17

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

特別当座預金制度を急遽見直し

日本銀行は16日、「地域金融強化のための特別当座預金制度」の見直しを発表した。対象先の特別付利の対象金額の上限を、過去の日銀当座預金全体の平均増加率を用いて全体として引き下げる措置だ。

同制度は、地域金融機関の経営基盤強化の取り組みを支援する仕組みとして、昨年11月に発表され、今年度から運用が始まったばかりである。このタイミングでの見直しは「朝令暮改」の印象もあり、違和感のあるものだ。

同制度のもとでは、経費率(経費÷粗利益)の低下、経費の削減、経営統合などの条件を満たした地域金融機関に対して、日銀当座預金の付利に+0.1%を上乗せし、マイナス金利を事実上なくす政策だ。地銀のおよそ8割が条件を満たすとみられる。日本銀行は見直しの理由を「適切な運営を確保する観点から」としか説明していない。

想定外の付利の支払い増加、コールレート上振れが背景か

日本経済新聞電子版によれば、支払額が当初の想定より大幅に増える見通しとなったことが見直しの理由だという。2020年以降、政府の実質無利子無担保融資制度の導入などにより銀行のコロナ関連融資は拡大した。同時に、それを日本銀行がバックファイナンスするコロナオペの残高も急増した。これが、地域金融機関の日銀当座預金の残高を大幅に膨らませたのである。

さらに、その日銀当座預金に適用される付利の上乗せ措置が、想定以上に日本銀行から地域金融機関への利払い費を膨らませ、地域金融機関の収益を膨らませる見通しとなった。

日本銀行は当初、同制度に基づく付利の支払い総額は多く見積もっても年間700億円強と試算していた。しかし実際には年間1,000億円程度に膨らむ可能性が出てきたことで、今回の制度の見直しを決めた模様である。

また、地域金融機関による同制度の利用が広がると、上乗せ付利の影響から、コール市場での資金取引の金利水準が高まりやすくなる。それによって、日本銀行が操作目標としている無担保コールレート(翌日物)が上振れ、また不安定となり、金融政策のコントローラビリティが低下することが懸念されている。

今回の見直しは、日本銀行の付利の支払いが想定以上に増加し、銀行への「補助金」との批判が高まることに配慮しただけでなく、こうした金融調節上の問題にも配慮して決めた可能性もあるのではないか。しかし、こうしたことは、制度導入当初から十分に予見されたことではなかったか。

地域金融機関のコロナ特需は今後剥落していく

制度利用先が予想以上に増え、また付利の支払い総額が当初想定よりも増える見通しになったからといって、始まったばかりの制度を見直す必要が、「適切な運営を確保する観点から」本当にあったのだろうか。これでは、経費削減などを通じた地域金融機関の経営基盤強化の取り組みの機運が削がれる、いわばはしごを外されることになってしまわないだろうか。

同制度の利用が想定以上に増えたのは、コロナ関連融資の拡大という一時的な特需によって、資金利益が上振れ、同制度利用の条件の一つである経費率(経費÷粗利益)を達成できる機関が多くでてきたからである。また、コロナ関連融資の拡大は既にみた経緯で日銀当座預金を膨らませ、日本銀行から地域金融機関への利払い費を増加させた。しかし、コロナ関連融資の拡大は、同制度が導入された時点で十分に予見されていたことだろう。

他方で、コロナ関連融資の拡大という特需はこの先急速に剥落していくことになる。それに伴い、地域金融機関の経費率引き下げは次第に困難となり、継続的な制度の利用は難しくなるところも出てくるだろう。それが見えているのであれば、ここで制度を見直す必要があるのか。

制度見直しは地域金融機関の信頼を損ねないか

コロナオペの残高もこの先着実に縮小していくことで、上乗せされた付利の受取額も減っていく。さらに、今年10月からは銀行間決済手数料の引き下げが実施されたことで、多くの地域金融機関の決済手数料は減少する。そのマイナスの影響を特別当座預金制度の利用時に配慮する措置を講じるように、全国地方銀行協会と第二地方銀行協会は日本銀行に求めていたほどである。

特別当座預金制度による資金利益の増加は、地域金融機関の先行きの収益見通しに既に盛り込まれており、それを達成するために、地域金融機関は経費削減に全力で取り組んでいる。今回の見直しは、そうした取り組みに水を差すものである。また、妥当性が明確に説明されない制度の見直しは、制度に対する信頼性、ひいては日本銀行に対する信頼性を損ねてしまうリスクもあるだろう。

今回経過措置、激変緩和措置を講じるとはいえ、日本銀行は地域金融機関からの批判を強く浴びることになるのではないか。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn