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変異株出現でグローバル金融市場のインフレ・利上げモードが一変

2021/11/29

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金融市場の混乱にブラックマンデーとの共通点も

南アフリカで確認され急拡大している新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」の出現は、世界の金融市場を大きく動揺させ、そのモードを一変させた。直前までインフレ懸念と米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ(政策金利引き上げ)前倒し観測に金融市場は支配されていた感が強いが、それが一日にして吹き飛んだ感じである。

1987年10月に起こった株価急落、いわゆるブラックマンデーは、世界に燻っていたインフレ懸念と主要国での金融引き締め観測を一気に沈静化させたが、それと似た構図である。

26日の東京市場では、日経平均株価は一時900円近く下落し、また同日の米国のダウ平均株価は900ドル以上の下落となった。一部で感染の再拡大リスクが高まっていた欧州では、株価は日米以上の下落率を記録し、世界同時の株価急落となったのである。

リスクオフモードが強まる

為替市場では直前に1ドル115円台までドル高円安が進んでいたが、26日の市場では113円台までドル安円高方向に押し戻された。また、米国国債10年利回りが0.15%ポイント程度一気に下がるなど、世界的に国債利回りは顕著に下落しており、資金が安全資産へと逃げるリスクオフモードが強まった。

新たな変異株「オミクロン株」は感染力が従来の変異株よりも大きく、またワクチンの効果が低下する可能性が懸念されているが、実際のところはその実体はまだ良く分かっていない。

しかし、既に感染が再拡大している国では、「オミクロン株」によって拡大がさらに加速するリスクが意識され、また、日本のように感染者数が低位に抑えられている国では、感染再拡大のリスクが改めて強く認識されたのである。

新型コロナウイルス問題やそれが経済活動に与える影響は、非常に不確実性が高いことが、改めて金融市場では認識されたと言える。そのため、リスクオフモードは一時的には終わらず、しばらく続くのではないか。

原油価格は予想外の大幅下落でインフレ懸念後退も

市場の動きで非常に注目したいのは、原油価格の急落である。26日のWTI原油価格は、1バレル78ドル台から68ドル台まで10ドル程度も一気に下落するという劇的な展開となった。1日の下落幅としては2020年4月以降で最大である。変異株により経済活動が打撃を受け、原油需要が落ち込むとの見方が強まったためだ。これによって、金融市場のインフレ懸念はかなり抑えられることになったのではないか。日本では同時に円高も進んだことから、悪い円安懸念、物価高懸念も後退しただろう。

そして、原油価格の急落が、FRBの利上げ見通しにも大きな影響を与えることになろう。FRBは、物価高騰は一時的としながらも、次第に物価高が長期化することへの警戒を強めており、11月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録によれば、物価高を警戒してテーパリングを加速させる意見が出ており、また、利上げに前向きな議論もされていた。

FRBの利上げ観測も修正か

FRBの利上げは、実際の物価動向やインフレリスクだけでなく、企業、家計、金融市場のインフレ観測に大きく左右される。企業、家計がインフレ観測を強めれば、それは実際にインフレリスクを高めることになるのである。

また、金融市場がインフレ懸念を強めれば、長期金利が上昇し、金融市場全体が不安定となる。そうなれば、実際にインフレリスクが高いかどうかは別として、FRBは利上げを通じて、金融市場のインフレ懸念を抑え、金融市場の安定回復に努めることを強いられる。原油価格の急落が企業、家計、金融市場のインフレ観測を抑えることから、FRBは利上げを急がない可能性が高まっているのではないか。

金融市場では2022年半ばにもFRBが利上げに踏み切るとの見通しが広がっていたが、それはかなり前のめりの見通しではなかったか。新たな変異株の出現を受けて、その時期は後ずれするとの観測が、今後金融市場では強まる可能性が考えられる。その過程で、長期金利の低下とドル安円高が進むだろう。ちなみに筆者は、FRBの利上げ開始時期は2023年と考えている。

利上げ見通し先送りは株価に追い風も

新たな変異株が感染リスクを大きく高める可能性が高まれば、世界的に株価は一段と下落しよう。当面はそうした動きが予想される。しかし、変異株への強い警戒が次第に薄れていく一方、市場などのインフレ懸念が従来ほどには高まらない場合には、FRBの利上げ先送り観測が市場に定着し、それが株価に追い風となる可能性も考えられるところだ。

世界的にインフレ懸念が高まり、FRBの利上げが早まる方向となれば、いずれは世界的に株価に顕著な下落圧力となる可能性があった。この点から、今回の金融市場の大きな調整は、しばらくたって振り返れば、株価にとってはむしろ安定材料となる「良い調整(good correction)」であった可能性もあるだろう。

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