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首相が所信表明演説:ポストコロナの日本経済のグランドデザインを

2021/12/06

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臨時国会では子ども給付金制度が大きな議論に

12月6日に臨時国会が召集される。会期は21日までの16日間である。10月4日に就任した岸田首相は、10月末の衆院選を経て、今回初めて野党との本格論戦に臨むことになる。臨時国会では、与党は補正予算の成立に全力を挙げる。

まず6日には首相が所信表明演説を行う。8日~10日には衆参両院で各党による代表質問が行われ、13日からは衆院で一問一答形式の予算委員会が開かれる見通しである。

補正予算案は、一般会計の歳出総額が約36兆円と過去最大規模となった。その目玉となる18歳以下に10万円を給付する子ども給付金制度については、現金とクーポンに分けたことで巨額の事務経費が発生することを野党が問題視しており、与野党間での議論は紛糾が見込まれる。

首相が所信表明演説については、その原案の一部が各種報道によって既に伝えられている。「オミクロン型」によって感染が再拡大する場合には、「国民の理解を丁寧に求めつつ、行動制限の強化を含め機動的に対応する」とする。また、経済社会活動の再開は「楽観的にならず慎重に状況を見極めなければならない」と強調する。

「人への分配」と「未来への投資」

外交・防衛政策については、その基本方針「国家安全保障戦略(NSS)」を、来年末をめどに改定する意向を表明する。

経済政策については、「一日も早く日本経済を回復軌道に持って行かなければならない」と訴え、先般打ち出した経済対策の重要性を強調する。また、「人への分配」を「未来への投資」と位置づけて、学び直しや職業訓練を支援し、再就職や正社員化、ステップアップを推進する。「スタートアップ」支援の抜本的な強化やデジタル化の推進も表明される。

首相が重要経済政策に位置づける「デジタル田園都市国家構想」については、5Gやデータセンターなどデジタル基盤の整備に加え、今後数年間で日本周辺に高速の海底ケーブルを敷設することも宣言する方向だ。

分配戦略については、政権が進める看護師、介護士、保育士の公的価格の引き上げ、賃上げ税制の強化の方針が示される。

日本経済の中長期のグランドデザインを示せ

政権発足から既に一定期間が経過したことから、岸田首相は今回の所信表明演説で、政策のより具体策を国民に丁寧に説明することが求められる。それと同時に、経済政策では、ポストコロナの日本経済をどのように変えようと考えているのか、中長期のグランドデザインを、自らの言葉で国民にしっかりと説明する必要があるだろう。

短期の経済政策については、先般の経済対策、補正予算案で示されたことから、今度は中長期のビジョンがより重要となる。衆院選挙戦では、与野党の経済政策は、分配、賃上げ重視でかなり似通っており、国民の間では両者の違いが明確ではない。所信表明演説では、岸田政権は中長期の経済政策のビジョンについて、野党との違いも意識しつつそれを明確に打ち出し、臨時国会で野党との論戦に臨んで欲しいところだ。

岸田政権は、「成長と分配の好循環」、「令和版所得倍増計画」、「新しい資本主義」などキャッチフレーズは出されているが、その中身はまだ明らかでない。特に「新しい資本主義」とは一体何なのか、今までに具体的な説明はない。有識者会議での議論も進んでいないのが現状だ。

賃上げ起点の成長拡大に勝算はあるか

岸田政権は成長戦略も打ち出す一方で、賃上げを成長拡大の起点にすることを目指しているように見える。その具体的な手段の柱が、税優遇で企業に賃上げを促す賃上げ税制の強化と、春闘での賃上げ要請の2つである。しかしこれらは安倍政権の下でも実施され、ともに上手くいかなかった政策だ。今回はそれが上手く機能するとの見通しであるならば、それを、強い根拠を持って丁寧に説明して欲しい。

ちなみに、筆者は対処療法的に賃上げを促し、それを起点に成長率を高める政策は上手くいかないと考えている。成長戦略、構造改革を通じて、賃上げの原資となる労働生産性の向上を図り、また、企業の成長期待を高めることを優先すべきだと考える。

また、企業の成長期待の一段の低下につながる財政環境の悪化、国債累増にどう歯止めをかけ、中長期の財政健全化をどのように進める考えであるのかについても、是非説明が欲しい。閣議決定された「来年度予算編成の基本方針」では、財政健全化路線が大きく後退してしまった(コラム「来年度予算編成の基本方針:財政健全化路線は風前の灯火か」、2021年12月3日)。

岸田政権が掲げる学び直しや職業訓練を支援する「人への投資」は、労働生産性の向上につながる政策であり重要と考えるが、実際には「人への投資」よりも単なる賃上げにより重点が置かれているように見える。

短期のコロナ対策と同時進行で構造改革、成長戦略を

成長戦略の中では、今までほとんど言及されてこなかった、出生率の向上や外国人労働力のさらなる活用を含めた人口対策やインバウンド戦略の再構築についても、さらに検討を進めて欲しい。

他方、岸田政権が掲げる「デジタル田園都市国家構想」については、地域経済の活性化とともに、東京あるいは大都市一極集中の是正を通じて経済全体の生産性向上や出生率の低下に歯止めをかけることで潜在成長率の向上につながる可能性がある。「デジタル田園都市国家構想」、「デジタル化戦略」、「東京一極集中の是正」を連携させることで、経済の潜在力向上につなげていって欲しい。

これらの施策については、コロナ問題によって、むしろ政策推進が後押しされるはずだ。コロナ問題を逆手にとり、短期のコロナ対策と同時進行で、日本経済の潜在力向上につながる構造改革、成長戦略を是非進めていって欲しい。

(参考資料)
「安保戦略 来年末めど初改定 首相所信表明の原案判明」、2021年12月2日、産経新聞
「首相所信表明原案、「行動制限強化、機動的に」、感染再拡大なら」、2021年12月2日、日本経済新聞

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