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人民元高進行と構造改革と経済安定化の間で揺れ動く中国の経済政策

2021/12/17

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予想外の人民元高の背景と当局の対応

足元では人民元高が急速に進んでおり、中国経済への悪影響が懸念され始めている。対ドルでの人民元は年初の水準を2%強上回っており、2018年5月以来の高値圏にある。

しかしその背景は必ずしも明らかではない。足もとで中国経済の成長鈍化が明確になっていることや、政府による民間企業への統制強化、あるいは中国恒大の経営危機によって海外投資家に大きな損失が生じる可能性が高まっているなど、いわゆる「チャイナリスク」の高まりは、海外から中国への資金流入には逆風であり、その面からは人民元安が進んでもおかしくない局面だ。

一つの説明は、新型コロナウイルス問題の影響である。まず海外では、感染リスクへの対応として、個人の支出がサービスからモノへとシフトしている。それが中国の貿易財の輸出増加につながり、人民元高圧力を生じさせている面があるとの指摘だ。

さらに中国政府は、厳格な行動制限などを通じて新型コロナウイルス封じ込めを図る「ゼロコロナ政策」を進めている。それは、来年2月の北京冬季五輪までは緩められる可能性は低い。その結果、中国国内から海外への旅行者が大幅に減少し、サービス輸入を減少させて、人民元高圧力を生じさせている面がある。

ただし、理由はともかく、人民元高が進めば、中国経済の成長鈍化をさらに促すことになるため、当局としては看過できなくなっている。中国人民銀行が為替市場で人民元の基準値を市場予想より低く設定することで人民元高を抑える試みが、以前からなされている。さらに人民銀は12月9日に、市中銀行に預け入れを義務づけている外貨の預金準備率を2ポイント引き上げ、9%とした。これは、国内の銀行システムから外貨を吸い上げ、人民元高圧力を抑えることになる。

予想外の低成長で政策は軌道修正

7-9月期のGDP成長率が前年同期比4.9%と予想を下回ったことは、当局の政策姿勢に修正を迫るものとなったようだ。これがきっかけとなり、人民銀行は預金準備率の引き下げを決めた。緩和措置に慎重な人民銀行に対して、成長鈍化への警戒を強める政府が強く要求して実現した、とされる。

成長鈍化の主因は不動産部門の不況であり、それを引き起こしたのは政府による統制強化である。新型コロナウイルス問題を受けた経済の悪化から、中国はいち早く抜け出ることができた。そこで、他国が新型コロナウイルス問題に苦しみ、経済が低迷している間に、長年の課題である中国構造問題、特に不動産分野での価格高騰、投機的行動を抑える構造改革に政府は乗り出したのだろう。

しかし、7-9月期のGDP成長率にも表れたように、そうした政策は、不動産分野、そして経済全体に予想外に打撃となってしまった。そこで、政府は政策を軌道修正し、複数の緩和措置を打ち出したのである。住宅ローンの制限や土地の入札規則を緩和し、また、デベロッパーが債務を返済しやすくするための措置を打ち出した。そして、市中銀行に義務付ける現金保有比率を引き下げ、企業の資金調達コスト低下を図ったのである。当局はさらに、銀行間債券市場でデベロッパーが地方債発行による資金調達をしやすくすることを予定している。

大幅金融緩和で人民元安への転換の可能性も

しかし、習近平国家主席が掲げる「共同富裕」の理念に基づく統制強化を撤回することはできない。中国政府は2014年の住宅不況や2008年の金融危機の直後には、不動産・インフラ投資の強化など、大規模な景気刺激策を打ち出したが、今回はその可能性は低い。そうした中、景気情勢のさらなる悪化を許してしまうリスクがあるのではないか。構造改革と経済の安定化策のバランスをとることは、中国では長年の課題であるが、その実現は難しい。

来年に景気情勢の悪化がより鮮明となった場合、政府は難色を示す人民銀行に対して、さらに大幅な金融緩和を強いる可能性が出てくるだろう。政府の統制強化の矛先は、人民銀行のような公的機関にも及んでおり、それが金融緩和への強い強制力を生む可能性があるのではないか。

その場合、足元の予想外の人民元高は、急速な人民円安へと一気に転じる可能性もあり、それに留意しておく必要があるだろう。

(参考資料)
"China Pushes Back Against Yuan Rally", Wall Street Journal, December 11, 2021
"Beijing Reins In China’s Central Bank", Wall Street Journal, December 9, 2021
"China’s Latest Challenge Is Engineering a Soft Landing for a Sputtering Economy", Wall Street Journal, December 10, 2021

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