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BOE、ECBが手探りの金融政策正常化に踏み出す

2021/12/17

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BOEは予想外の利上げ決定

12月16日の金融政策を決める会合で、イングランド銀行(BOE)は利上げ(政策金利の引き上げ)を決定、欧州中央銀行(ECB)はコロナ対応の資産買い入れ策の終了を決定するなど、金融政策の正常化に踏み切った。

前日の15日に米連邦準備制度理事会(FRB)がテーパリング(資産買い入れの段階的縮小)の加速を決めたことと合わせ、主要中銀が揃って物価高騰への対応を打ち出した形である。また前日の米国市場と同様に、政策決定後の欧州の株式市場も堅調に推移した。中央銀行が物価高騰に対して強い姿勢を見せたことで、金融政策面での対応が遅れることで高いインフレ率が定着してしまう、との懸念が和らいだことが一因だろう。

BOEは政策金利を0.15%引き上げて0.25%とした。新型コロナウイルス問題発生後では、G7(主要7か国)の中で初めての利上げである。今回は、オミクロン株の影響を見極めるために、利上げは見送られるとの見通しが市場ではやや優勢であった(コラム「各国金融政策に温度差を生むオミクロン株とECB理事会の注目点」、2021年12月15日)。

前回11月の会合では、利上げ実施が強く予想される中で利上げが見送られた。BOEは、2回連続で市場の期待を裏切る決定を行ったことになる。直前に発表された11月消費者物価が前年同月比+5.1%と高い上昇率になったことが、利上げの決定を後押ししたと考えられる。

ECBは予想通りに激変緩和措置を講じた

他方、ECBは事前予想通りにパンデミック緊急資産買い入れプログラム(PEPP)を来年3月に終了することを決めた。一方で、資産買い入れ額が一気に減少することを避けるため、従来の資産買い入れプログラムであるAPPを通じた資産買い入れを、来年4-6月期に月額400億ユーロ増額する。さらに7-9月期には増額を月額300億ユーロに縮小し、10月には現在の月額200億ユーロの買入れペースに戻す。コロナへの緊急対応措置を解除する正常化策を進める一方、市場の安定にも配慮して、激変緩和措置も講じたのである。これも、事前に予想されていた通りである(コラム「各国金融政策に温度差を生むオミクロン株とECB理事会の注目点」、2021年12月15日)。

さらに、PEPPの下で買入れた資産が満期を迎えた際にその償還金を再投資する際の規則も見直した。声明では「パンデミックに関連した市場の分断化が再燃した場合には、PEPPの再投資を投資対象の国、期間、アセットクラスの点で柔軟に調整できる」とした。

投機的格付けのギリシャ国債は、APPでの買い入れ対象とはならない。PEPPが打ち切られれば、ECBによるギリシャ国債買入れはなくなってしまい、国債市場に悪影響が及ぶ可能性があることから、ギリシアは買入れの継続をECBに要請していた。今回の措置は、こうした要請に対応するものだ。

コロナ禍のもとでの正常化策は手探り

ECBの物価見通しによると、2022年の物価上昇率は目標の2%を上回る前年比+3.2%に達する一方、2023年、2024年はともに同+1.8%と物価目標を下回る。物価高騰は一過性であり、2023年以降の物価上昇率は目標水準を下回る見通しとなっている。この見通しを踏まえてラガルド総裁は、「物価上昇率を中期的に2%の目標で安定させるには金融緩和がなお必要」としている。

物価高騰は一過性との評価を修正したFOMCの物価見通しでは、2023年末の物価上昇率もなお2%の目標値を上回っているが、ECBの物価見通しはこれとは異なるのである。さらに、ラガルド総裁は、来年中の利上げ実施には引き続き否定的だ。BOE、ECB、FRBはほぼ同じタイミングで金融政策の正常化を進めたが、それぞれの物価見通しや政策姿勢には温度差も大きいのである。

今回の金融政策の正常化策は、通常の景気回復期の正常化策とは異なり、新型コロナウイルス問題に経済が大きな影響を受け続けているもとで行われる。かなり不確実性が高い環境下での取り組みである。新型コロナウイルス問題に関わる供給側の影響によって引き起こされている面もある物価高騰に、需要側に働きかける伝統的な金融引き締めがどの程度有効であるかは明らかではない。

金融引き締めが進められる中でも物価高騰に歯止めがかからなければ、金融市場は物価高が定着してしまうとの懸念を強め、大きく混乱してしまう可能性がある。他方で、金融引き締めによって経済が予想外に悪化してしまう可能性もあるだろう。

この点から、各中央銀行の正常化策は、まさに手探りなのである。通常の正常化策、利上げ策は市場の安定維持に配慮して、市場の予見性を重視する形で進められる傾向が強いが、今回はそれよりも状況に従って臨機応変に対応できる柔軟性が求められる。

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