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補正予算の成立から来年度予算案へ

2021/12/20

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膨張に歯止めがかからない予算規模

12月20日に参院予算委員会で締めくくり質疑が行われた後、参院本会議で2021年度補正予算案が可決され、成立する見通しだ。新型コロナウイルス禍に対応した経済対策の裏付けとなるこの補正予算は、36.0兆円と過去最大規模である。そして、6日に召集された臨時国会は15日間の会期を終えて21日に閉幕する。

一方、政府内では24日の閣議決定に向けて、来年度(2022年度)予算案の調整が本格化してきている。報道によれば、一般会計総額は107兆円台後半となる見通しである。当初予算の規模は今年度(2021年度)予算の106.6兆円を上回り、10年連続で過去最大を更新することになる。新型コロナウイルス問題を受けて、当初予算の規模は2021年度に4兆円程度、前年度から水準を切り上げたが、それが戻されることなくさらに増額されることになる。

使い道のチェックが十分になされにくい補正予算で、財政規模を増額することが常態化している。2020年度予算は当初規模の102.7兆円が補正予算を経て175兆円まで大幅に膨らみ、2021年度予算の規模も当初の106.6兆円から補正で142.5兆円にまで膨らむ。2022年度についても同様に、補正予算編成でさらに規模が膨らむことなる可能性が高い。

メリハリの利いた予算編成となっていない

先般の経済対策では、16か月予算として今年度補正予算と来年度本予算にまたがる施策が決定された。経済対策に盛り込まれた国の一般会計予算規模は43.7兆円であり、それと補正予算の36.0兆円の差である8兆円弱が、16か月予算として来年度予算案に計上されると考えられる。

新型コロナウイルス禍に対応した経済対策が、そのまま本来の当初予算規模に上乗せされたイメージではないか。コロナ対策に予算をあてる分、他の予算を調整するといった、メリハリの利いた予算編成とはなっていないのではないか。こうした姿勢のもとでは、コロナ禍のようなイベントが起きるたびに、歳出規模が膨らみ財政の悪化が進むことになる。

コロナ対策に加えて、2022年度は高齢化に伴う社会保障費の自然増分が6,600億円加わり、財政の悪化にさらに拍車をかける。これは、医療費が膨らみやすい75歳以上に団塊の世代が入ってくることの影響だ。防衛費については、戦闘機を支援する無人機の開発検討に101億円を計上するなど、歳出総額は5兆4,000億円程度と過去最大となる見通しである。防衛省は今年度の補正予算案と来年度予算案を合わせて「防衛力強化加速パッケージ」と位置づけており、総額は6兆円を超える規模になろう。

短期と中長期の政策を明確に分けることが重要

今年度補正予算と来年度予算に反映される今回の経済対策には、短期のコロナ対策と中長期の経済対策が混在している。その結果、それぞれの経済対策の狙いが曖昧になってしまった面があるのではないか。

補正予算の審議の過程では、10万円の子ども給付が与野党間での論争の中心となり、最終的には政府は当初案を事実上修正することを迫られたのである。その背景には、そもそも子ども給付制度を、本来の目的を実現するのに適った設計としなかった点もあるのではないか。

コロナ対策なのであれば、子供を基準とするのではなく所得の変化を基準とし、コロナ問題で所得が大きく減少した人、家計に絞った給付とすべきではなかったか。子育て支援といったコロナ問題以外の要素が入り込んでしまった結果、目的が曖昧になり精緻な設計とならなかった面もあるのではないか。

短期の経済政策と中長期の経済政策を、それぞれ異なる目的に適う形でしっかりと実施するには、補正予算は短期のコロナ対策に限定する一方、成長戦略などはその中身を十分に吟味したうえで来年度予算にすべて計上した方が良かったのではないか。

財政健全化は風前の灯火か

先般政府が閣議決定した「来年度予算編成の基本方針」では、従来の基本方針には記載されていた「経済・財政一体改革」、「歳出改革」「(歳出の)聖域なき徹底した見直し」などの文言が削除された。財政健全化路線は完全に息絶えてしまうかのような印象である(コラム「『来年度予算編成の基本方針』:財政健全化路線は風前の灯火か」、2021年12月3日)。自民党内では積極財政の論調が高まっており、岸田首相自身、それを抑えることが難しくなっているような印象もある。

基本方針では、最大の目標であるデフレ脱却を成し遂げるため「必要な財政支出は躊躇なく行い万全を期する」とされたが、物価上昇率が極めて低い状況は、経済の潜在力が低いことを反映したものであり、いわば現在の日本経済の実力に見合った「常態」である。それを例外的な状態と捉えて財政拡張策を正当化すれば、そうした政策がまさに「常態」となり、財政環境は際限なく悪化していく。

政府の歳入は経済の潜在力の反映であり、歳入水準に見合った形で歳出を調整する「歳出改革」は常に求められるだろう。他方、ここまで財政環境が悪化してしまった以上、短期間で日本の財政環境を正常化することはできない。そこで、財政健全化の方針を中長期の政策の軸として常に堅持する姿勢が重要である。そして財政健全化には、「歳出改革」、「歳入改革」、「成長戦略」の3本柱をバランス良く進めていくことが求められる。

直ぐに増税する訳でなくても、将来時点でコロナ財源を確保する議論を進めることが重要である。しかし、そうした議論はまだ始められていない。

財政環境の悪化は経済の潜在力を低下させ、さらなる財政悪化につながる

国債発行で賄う形で財政拡張路線を続ければ、それは将来世代の需要を奪い続けることになる。その結果、将来の成長期待が低下して、企業は国内での設備投資、雇用、賃金を抑制し、それが労働生産性上昇率の低下、潜在成長率の低下につながってしまうだろう。それは結局、現代に生きる我々の経済・生活環境も大きく損ねてしまうのである。

国債発行はただで財源が確保できる「打ち出の小槌」などではなく、必ず誰かがその借金を返さなければならない。それが資本主義の原則であり、その点は、民間の借金でも国の借金でも変わりはない。

国債発行残高が累積を続ける中、上記のような経路で日本経済の潜在成長率はさらに低下し、日本はますます貧しくなっていく。そうした悪循環をなんとしてでも食い止めなければならない。

デジタルを軸とする成長戦略に期待

歳出拡大で作り出す需要は一時的な効果しかなく、成長戦略とは言えない。成長戦略には、税優遇と補助金で企業の取り組みを促すものが多いが、そうした従来タイプの政策がどの程度有効であるかについては、十分な検証が必要だ。規制改革による民間需要創出など、予算を付けなくても可能な成長戦略もある。

経済の潜在力を高める成長戦略や構造改革については、岸田政権のデジタル戦略に大いに期待したい。「デジタル田園都市国家構想」、「デジタル庁の行政のデジタル化政策」、「東京一極集中是正」の3つを組み合わせて推進していくことが重要ではないか。また、コロナ問題を奇貨として、現在のコロナ禍のもとで迅速にそうした施策を推進していくことが望まれる。さらにそれらを、人口対策、インバウンド戦略と連動させていくことも重要だ。地方での5Gの整備は、将来のインバウンド需要の取り込みにもプラスになり、それは潜在成長率の向上にも資するはずだ。

デジタル化が進む地方に政府、企業、人が移転していき、地方に埋もれたインフラが活用されていけば、日本全体の経済効率は高まる。また大都市部、特に東京から地方への人流は出生率の向上にも貢献し人口対策にもなるだろう。

(参考資料)
「予算案107兆円台」、2021年12月18日、日本経済新聞
「<NHKニュース おはよう日本>過去最大 来年度 予算案 防衛費 約5兆4000億円 最終調整」、2021年12月17日、NHK

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