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隣国・韓国での感染急拡大から日本は何を学ぶか

2021/12/23

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「ウィズコロナ」の規制緩和から1か月半で新規感染者数は5倍に

徹底的なPCR検査の実施など厳しい感染対策で新規感染者の発生を抑え込み、一時は「K防疫」として世界に名を広めた韓国が、現在では連日過去最大規模の新規感染者の発生に見舞われている。その背景には、来年3月の大統領選挙を意識して、経済活動に打撃を与える規制再強化に慎重な政府の姿勢があった、との指摘も高まっている。感染再拡大は政治問題化してきており、その対応が、大統領選挙の争点の一つともなっている。現在は新規感染者が依然低水準にある日本は、隣国韓国でのこうした動きを「他山の石」として捉え、そこから教訓を学び取っていくことが重要だろう。

韓国で感染増加が目立っているのは中高年齢層であり、新規感染者数の3割程度が60歳以上だ。基礎疾患を持った中高年も少なくないため新規感染者は重症化しやすく、それが医療体制を急速に逼迫させ始めている。

また、ワクチン接種済みの高齢者が「ブレークスルー感染」するケースも多く見られる。ワクチンの接種完了から半年ほどが経ち、感染や重症化の予防効果が低下している高齢者が多いためである。他方、未接種の高齢者が感染するケースもあり、60歳以上のワクチン未接種者が100万人ほどいるのが急増の原因の一つ、ともされている。

ワクチン接種率が7割を超え、新規感染者数が落ちついたことを受けて韓国政府は、11月1日から「ウィズコロナ」、「日常回復」を掲げて、飲食店や遊興施設の営業制限などを緩めた経緯がある。

11月初めに一日1千人台だった新規感染者数は1か月半で5倍にまで急増したのである。専門家の間では、ソーシャルディスタンスを再び強化すべき、との意見も高まったが、文政権は、規制緩和は政府のコロナ対策「K防疫」が正しかったことの証であり、それを来年3月の大統領選挙の追い風にする狙いがあったため、その修正に応じなかったとされる。

政府はようやく規制を再強化へ

しかし、その後も新規感染者数の急増が続いたことから、12月15日になってようやく、政府は規制を再強化する考えを示したのである。金富謙(キム・ブギョム)首相は15日の対策会議で、「私的な集まりの人数や、飲食店の営業時間を制限する案を検討する」とした。首都圏では現在、私的に集まることのできる人数の上限は6人であるが、これを4人までに減らす。また飲食店は夜10時までの営業制限の再導入が検討されている。こうした政府の対応については、政治的事情を優先した結果対応が遅れた、との批判が出ている。

また、「ウィズコロナ」の切り札として政府が13日に運用を始めたばかりの「防疫パス」についても、問題が指摘されている。これは、飲食店、映画館、図書館など多数の人が出入りする場所に入る際に確認される接種完了や陰性証明である。ところが、ソウル市の感染者に占めるワクチン接種者の感染、いわゆるブレークスルー感染の比率は65%にも達している。そのため、この防疫パスの効果を疑問視する声も少なくないのである。

来年3月の大統領選挙の大きな争点に

感染再拡大への対応は、来年3月の大統領選挙の大きな争点として浮上してきた。与党候補の李在明(イ・ジェミョン)氏側は、中小企業や自営業者など、コロナの影響を受けた人たちを救済する政策を強く打ち出してきた。そうした政策をさらに強化する考えである。

他方で、最大野党「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏陣営側は、病床不足が心配されるなか、医療体制の整備案を打ち出している。さらに、貧困層の感染者に対する医療費保障策なども検討中だという。世論調査によれば、両者の支持率は現在拮抗している。コロナ対策の評価が、勝敗を決める可能性もあるだろう。

政府、与党は、選挙を意識してバラマキ的なコロナ対策を実施してきたとして、今までの政策への批判も改めて高まっている。政府は昨年4月の国会議員総選挙前と今年4月のソウル・釜山市長補欠選挙前に、ともに新型コロナ支援金を出している。コロナ問題によって選挙に敗れるとの危機感が、政府及び与党「共に民主党」の間で強まったためである。

新型コロナ発生以降、個人、企業への給付を中心とする計6回、115兆ウォン(約11.1兆円)規模の補正予算が編成された。給付ではなく、医療体制強化にもっとお金が使われていたら、現在のような深刻な病床不足問題や医療崩壊危機は回避できた、との指摘もなされている。

日本は韓国から何を学ぶか

さて、以上の韓国での一連の動きから、日本は何を学ぶべきだろうか。大きく以下の3点ではないか。第1は、新規感染者数が現在は低水準にあっても、韓国のようにいつ急増するか分からない。そのため、拙速な規制緩和は避けるべきだろう。政府がソーシャルディスタンスの規制を緩和すると、感染回避のために個々人が行っている対策にも緩みが広がりやすい。緩和効果が増幅されてしまうのである。こうした点にも配慮して、日本では慎重に規制緩和を進めていく必要があるだろう。韓国で現在急速に広がっている感染は、オミクロン株ではない。オミクロン株の感染への警戒ばかりでなく、従来型のウイルスへの警戒を怠るべきではない。

第2に、韓国では、ワクチン接種済みの高齢者がブレークスルー感染するケースも多く見られる。ワクチンの接種完了から半年ほどが経ち、感染や重症化の予防効果が低下しているためである。従って、日本でも高齢者を中心に、3回目のワクチン接種をできるだけ迅速に進めていくことが重要だ。

第3に、重症化しやすい高齢者の感染拡大が、一気に医療逼迫を生んでいる韓国の状況に鑑みると、新規感染が低水準の日本でも、医療体制を強化する試みの手を緩めてはならないだろう。先般の日本の経済対策を見ると、韓国と同様に、選挙を意識して個人への給付を優先した面があるように感じられる。コロナ対策から政治色を排除し、必要な感染拡大の予防策や医療体制の強化により手厚く資金を配分する必要があるだろう。

(参考資料)
「NEWSNAVI:韓国 オミクロン株含め過去最大級 感染拡大で問われる「K防疫」」、2021年12月26日号、サンデー毎日
「韓国、感染拡大で行動制限再強化 死者・重症が最悪水準-60代以上が全体の3割、ワクチン効果低減でブレークスルー感染」、2021年12月16日、日本経済新聞電子版
「韓国大統領選前に成果挙げようとゴリ押し政治防疫…「後退なし」言明の2週間後に後退」、2021年12月16日、朝鮮日報

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