フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 大詰めを迎える来年度予算編成:進まなかった2022年問題への対応と国民負担の先送り

大詰めを迎える来年度予算編成:進まなかった2022年問題への対応と国民負担の先送り

2021/12/23

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

来年度当初予算は107.6兆円規模に

12月24日の閣議決定を前に大詰めを迎えている来年度政府予算編成の姿が、次第に明らかになってきた。一般会計総額は107.6兆円程度とする方向で最終調整がされている。これは今年度当初予算の106.6兆円を上回り、10年連続で過去最大規模を更新する。

今年度当初予算からの増加分は1兆円程度と大きくないが、常態化している補正予算編成によって、予算規模はさらに膨れ上がる可能性が高い。今年度予算の規模も当初の106.6兆円から補正で142.5兆円にまで膨らむ見通しである。来年度はそれ以上となる可能性もある(コラム「補正予算の成立から来年度予算案へ」、2021年12月20日)。

来年度予算では、新規国債発行額は36.9兆円、うち8割以上の30.6兆円が赤字国債になる見通しだ。税収増に伴い、新規発行額は今年度当初予算の43.5兆円を下回る見通しである。

2022年度政府成長率見通し+3.2%は高過ぎないか

ただし、国債の償還や利払いにかかる国債費は24.3兆円と見積もられており、2年連続で過去最大を更新する。また、コロナ禍で抑制された経済活動の本格再開で企業業績が上向くことを前提に、税収が過去最高の65.2兆円と見積もられているが、それが過大であり、国債発行額はさらに増える可能性がある。

23日に内閣府が公表した政府見通しでは、2021年度の実質GDP成長率見通しは+2.6%とそれ以前の+3.7%から大きく下方修正された。他方で、2022年度の実質成長率見通しは+3.2%へと上方修正された。感染問題によって予想外に下振れる2022年度成長率の反動から、2023年度の成長率は上振れ、+3%を超えるとの見通しだが、果たしてそのようになるのか。ちなみに筆者の見通しは+2.0%程度である。

足もとのオミクロン株の影響が大きな成長率の下方修正要因となり得る点を置いても、不動産分野の不振による中国経済の減速、コロナ経済対策の効果が剥落することによる世界経済の成長鈍化、エネルギー価格高騰による消費抑制効果など、来年度についても日本の成長率を抑制し続ける要因は少なくない。

政府は、当初予算ベースで国債の新規発行額を前年度比で抑制し、財政環境に配慮する姿勢を見せてはいるが、こうした高すぎる成長率見通しの前提や大型補正の可能性も踏まえると、国債発行残高の急速な増加はさらに続き、財政が危機的状況を脱するめどが立っていない状況である。

「2022年問題」への対応は十分に進まず

来年度予算の規模拡大を主導するのは、コロナ対策費と社会保障費である。新型コロナへの対応では、5兆円の予備費が計上される。これがなければ、一般歳出規模は、コロナ問題の影響を受ける前の2020年度当初予算規模の102.7兆円に近いものである。

そして、来年度予算では、社会保障費が初めて36兆円を突破する。高齢化に伴う社会保障費の自然増で歳出が膨らむためである。2022年は「2022年問題」とも呼ばれる特別な年だ。終戦直後の低い出生率から一転して出生率が高まり、人口が急激に増加し始めたのは1947年頃だ。それ以降に生まれた「団塊の世代」が2022年には後期高齢者である75歳以上となりはじめる。医療費などでは後期高齢者の自己負担比率が下がることから、1人当たりの医療や介護の費用は急増するのである。財務省によれば、65歳~74歳の前期高齢者と比べて、75歳以上の後期高齢者の一人当たりの年間医療費は約1.7倍、介護費は9.6倍に達する。

2022年度の社会保障費について政府は、今夏の概算要求の段階では高齢化による自然増を6,600億円と見込んでいた。その後に決まった後期高齢者の窓口2割負担と、薬価のマイナス改定などによって4,400億円増まで抑えることになる。それでも、社会保障費の自然増を今後も抑えていくには十分な措置ではない。

なぜ10月からなのか

単身世帯で年金を含む年収200万円以上、2人以上世帯では合計で年収320万円以上の後期高齢者約370万人が、新たに2割の医療費自己負担の対象となる。ただし引き上げは、来年4月からではなく10月からである。

一方、コロナ対応で雇用調整助成金の給付が拡大していることなどから収支が悪化している雇用保険については、労使折半で賃金の0.2%となっている「失業等給付」の料率を2022年9月までは据え置き、10月から0.6%に上げることが決まった。収支の均衡に必要な失業等給付の料率は本来0.8%だが、2022年度に限りこれを下回る料率が認められ、さらに0.6%に引き上げる時期は10月に先送りされる。

後期高齢者の医療費自己負担とこの失業等給付の料率の引き上げがともに10月に先送りされたのは、来年夏の参院選への影響を政府、与党が警戒したため、と広く認識されている。

選挙日程などに配慮して予算編成など財政政策を決めていると、いつまでたっても財政健全化が進むことはないのではないか。そうして累積する政府債務は、将来世代の負担を高め、また将来世代の需要を奪ってしまうことにより、先行きの成長期待を低下させる。その結果、企業が現時点での投資、雇用を抑制すれば、日本経済の潜在力はますます低下してしまうだろう。財政健全化の先送りを続ければ、それは将来世代と現役世代の国民の経済的利益を損ねることになる(コラム「「来年度予算編成の基本方針」:財政健全化路線は風前の灯火か」、2021年12月3日)。

(参考資料)
「新規国債発行額は36.9兆円、22年度予算案-報道」、2021年12月22日、ブルームバーグ
「診療報酬本体0.43%増 後期高齢者2割負担は10月から」、2021年12月22日、日本経済新聞電子版
「失業給付の保険料、22年10月から0.6%に上げ」、2021年12月22日、日本経済新聞電子版

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn