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2022年に本格化する経済安保政策は企業の自由な活動とステークホルダーの利益にも配慮を

2021/12/27

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金融庁「投資家と企業の対話ガイドライン」にも盛り込まれた経済安全保障

政府は来年の通常国会に、経済安全保障法案を提出する方針だ。同法がひとたび成立すれば、将来にわたって段階的に拡充されていくことが予想される。当初の経済安全保障法の柱となる見通しは、以下の4点である(コラム「経済安全保障法案策定に向けた動きが加速」、2021年12月2日)。

  • 【サプライチェーン】:国民生活や産業に重大な影響が及ぶ状況を回避すべく、重要物資や原材料のサプライチェーンを強靭化
  • 【基幹インフラ】:基幹インフラ機能の維持等に係る安全性・信頼性を確保
  • 【官民技術協力】:官民が連携し、技術情報を共有・活用することにより、先端的な重要技術を育成・支援する枠組み
  • 【特許非公開】:イノベーションの促進との両立を図りつつ特許非公開化の措置を講じて機微な発明の流出を防止

この4点のうち、今後一段と強化されていき、企業経営にも大きな影響を与える可能性があるのが【官民技術協力】である。

2021年6月11日には、東京証券取引所から「コーポレートガバナンス・コード」の改訂、金融庁から「投資家と企業の対話ガイドライン」の改訂がそれぞれ公表された。「投資家と企業の対話ガイドライン」とは、金融庁の説明によれば「コーポレートガバナンスを巡る現在の課題を踏まえ、スチュワードシ ップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードが求める持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けた機関投資家と企業の対話において、重点的に議論することが期待される事項を取りまとめたもの」である。

そして今回の改訂では、「国際的な経済安全保障を巡る環境変化」という文言が急遽加えられた。それが、以下の部分である。

「ESGやSDGsに対する社会的要請・関心の高まりやデジタルトランスフォーメーションの進展、サイバーセキュリティ対応の必要性、サプライチェーン全体での公正・適正な取引や国際的な経済安全保障を巡る環境変化への対応の必要性等の事業を取り巻く環境の変化が、経営戦略・経営計画等において適切に反映されているか。また、例えば、取締役会の下または経営陣の側に、サステナビリティに関する委員会を設置するなど、サステナビリティに関する取組みを全社的に検討・推進するための枠組みを整備しているか。」

この記述は、あたかも、ESG、SDGs、サステナビリティと同列に経済安全保障への対応が企業に求められているかのような印象を与えるものではないだろうか。

 

日本企業の間で広がる経済安全保障への対応

政府は、重要技術の海外流出、外資による日本企業への影響力増大などに警戒して、そうしたリスクを減らすよう、2022年には企業により強い協力、対応を求めることになるだろう。政府が主要企業に対して、経済安全保障の担当役員を設置することを主張する声もあがっている。次回の「コーポレートガバナンス・コード」の改訂や、金融庁から「投資家と企業の対話ガイドライン」の改訂には、それが盛り込まれるかもしれない。

企業の間には、既に経済安全保障への対応、政府の経済安全保障政策への協力を意識して、新たな組織を社内に設置するところも出てきた。富士通は、12月1日に「経済安全保障室」を新設した。室長以下5人を配置して、各国の政策が自社の事業に与える影響を評価するとともに、対応方針を策定する考えだ。政策渉外担当の執行役員専務が、経済安全保障担当も兼務する。今後は、同様の組織を社内に設置する企業が増えてくるだろう。

国益と企業・ステークホルダーの利益とは別

ただし、政府が企業に経済安全保障への対応を求めると、それは、企業の自由な活動を制限し、時には収益環境を損ねることもあるだろう。ESGやSDGsへの対応であれば、株主を含むすべてのステークホルダーの利益に適うものといえるだろう。しかし、経済安全保障への対応は、それとは異なるのである。

経済安全保障政策は日本の国益を守るための政策であるが、それは企業の株主などステークホルダーにとっての利益とは必ずしもならない。外国人の株主も少なくないことを考えれば、それは明らかだろう。

経済安全保障政策への協力の名のもとに、政府が企業の活動に過度に関与すれば、経済の非効率を招きかねない。これは、健全な企業活動と強い経済が、経済安全保障の観点から求められることとも矛盾してしまう。

有識者会議の初会合でも、経済安全保障政策が企業活動を過度に制約することへの警戒から、「規制対象の明確化や、企業への丁寧な説明が必要だ」などの指摘があがったという。

政府には、今後の法制化に向けて慎重な対応を求めたい。仮に企業への規制が行き過ぎれば、「企業の活動は国家の発展のためになければならない」として、企業に対する統制を急速に強める中国に近付いてしまうのではないか。

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