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中国の人権問題が貿易分野に本格的に波及

2021/12/28

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2022年にウイグル強制労働防止法案が発効

バイデン米大統領は2021年12月23日、中国新疆ウイグル自治区からの物品輸入を原則禁止する「ウイグル強制労働防止法案」に署名し、同法が成立した。2022年6月に発効する。

ウイグル自治区では中国政府が宗教上のマイノリティー(少数派)に対する強制的な同化政策を進めている、と海外では指摘されている。バイデン政権は、ウイグル自治区での人権侵害を民族・人種集団を計画的に破壊する「ジュノサイド」と非難している。

同法は、米税関・国境取締局(CBP)がウイグル自治区で生産された製品をすべて「強制労働でつくられた」とみなし、原則的に輸入を差し止めるものだ。ウイグル自治区で生産された完成品だけでなく、そこで作られた部材を含んだ完成品も対象となる。

従来米国では、ウイグル自治区で生産された綿製品、トマト、一部の太陽電池部材などの輸入が禁じられていたが、同法の施行によって輸入禁止の対象は、一気に全製品にまで広がる。米国がウイグル自治区で生産された製品を輸入する際には、企業側がその製品が強制労働によって作られたものではないと証明する必要がある。

米国のウイグル強制労働防止法成立を受けて中国政府は、「強烈な憤慨と断固とした反対」を表明し、同法を「グローバルなサプライチェーン(供給網)の安定を破壊し、国際貿易の秩序をかき乱すだけだ」と批判した。さらに中国官営メディアの環球時報は、信用に値する証拠が提供されない限り、ウイグル自治区の製品の輸入を米国が禁止することは、いわば「推定有罪」の原則に基づくものであり、「推定無罪」という現代の法治の基本原則に反するもの、と批判している。

日本企業はウイグル自治区で生産された製品、部材の輸入を停止する方向か

同法に基づき、米国務省は3か月以内に、強制労働問題の解決に向けて同盟国と協調するための戦略をまとめる方針だという。今後は、法律上の課題はあるだろうが、日本を含めた同盟国も、同様にウイグル自治区で生産された製品の輸入を原則禁じる措置をとることを求められる可能性がでてきた。

同法が発効する2022年6月までに、日本企業は米国に輸出する製品がウイグル自治区で生産されたものでないか、あるいは生産された部材を含む製品ではないかを急いでチェックすることが求められる。ただし、2次、3次のサプライヤーまで厳格に調査をするのは、かなりの時間とコストがかかるのではないか。

他方、製品が強制労働によって作られたものではないと証明することは、実地調査が簡単にできない中では事実上は無理に近いのではないか。同法はそれを見越して作られているともいえる。

そのため、日本企業は、米国に輸出する製品からウイグル自治区産のものをすべて排除する方向となるだろう。さらに、米国以外の国でも同様の措置が広がりつつある。それに加えて日本国内でも、ウイグル自治区で生産された製品の輸入を禁じる措置が取られる可能性が、将来的にはあるだろう。

こうした点を踏まえると、日本企業はウイグル自治区で生産されたほぼすべての製品の輸入、あるいはそこで製造された部材やそれを含む製品の輸入を、今後は停止する方向へと動いていく可能性があるのではないか。

インテルは中国への謝罪に追い込まれる

ただし、こうした措置は、中国側からの強い反発と制裁を招くリスクがある。中国は2021年6月に、中国企業に対する外国の差別的措置への協力を禁じる「反外国制裁法」を施行した。これに違反した企業は、損害賠償請求の対象になる恐れもある。また、中国の企業や国民から自社製品のボイコットを受けて、大きな打撃を受けるリスクもある。

米半導体大手インテルは、ウイグル自治区からの調達を控えるようサプライヤーに要請する書簡を送ったが、それが中国のソーシャルメディア上で批判が殺到した。そのため、2021年12月23日にインテルは、この書簡について、「米国の法律を順守することが目的で、新疆地区に関する同社の立場を示すものではない」と表明した。中国の複数のソーシャルメディアに「尊敬すべき中国の顧客やパートナー、一般の方々に混乱を招いたことを深くおわびする」とする声明を出したのである。

2022年の世界経済の新たなリスクにも

トランプ前政権下では、中国の不公正な貿易慣行と中国への機密情報漏洩の可能性を指摘して、中国製品、企業に対する制裁を進めていた。バイデン政権下では、これに人権問題が加わっている。バイデン政権は、「ウイグル強制労働防止法案」による輸入禁止措置にとどまらず、中国の人権問題を理由に、貿易面での制裁、規制措置をさらに拡大していく可能性があるだろう。そして、日本を含む同盟国に対して、それに同調するように求めるだろう。

トランプ前政権下での米中間での追加関税引き上げ合戦は一巡したが、新たにバイデン政権の下では、人権問題を背景に再び貿易面での摩擦が米中間で強まってきたのである。それは、2022年の世界経済の新たなリスクになるだろう。そして、日本を含む先進国の企業にとって、中国に関わるビジネス環境はまずます厳しさを増していく方向だ。

(参考資料)
"Intel Apologizes After Asking Suppliers to Avoid China’s Xinjiang Region", Wall Street Journal, December 24, 2021
「米、ウイグル禁輸法成立*中国反発、対抗も示唆」、2021年12月25日、北海道新聞
「米ウイグル産禁輸法、日本企業板挟み 調達先の精査急務」、2021年12月24日、日本経済新聞電子版
「米ウイグル禁輸法成立 日本企業影響調達見直しを」、2021年12月25日、東奥日報
「ウイグル製品禁輸、中国反発 米で強制労働防止法成立 来年6月発効」、2021年12月25日、朝日新聞 
「新疆を巡る米国による「世紀の大ウソ」、中国の団結を強めるだけ―中国紙社説」、2021年12月26日、Record China

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