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FRBのパウエル議長の記者会見-humble and nimble

2022/01/27

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はじめに

FRBは今回(1月)のFOMCで、資産買入れの減速をさらに進めて3月初に終了する方針を確認した。また、声明文に利上げが間近である(soon)点を明記して次回(3月)の利上げ開始を示唆したほか、保有資産の縮小に関する方針を公表した。

経済情勢の評価

パウエル議長は、冒頭説明で経済活動の力強い拡大の継続を確認し、オミクロン株の影響についても、不透明性は残るが従来に比べて経済への影響は大きくないとの見方を示唆した。実際、声明文における経済情勢の評価は前回(12月)と全く同じである。なかでも雇用は、雇用者数の増加や失業率の低下に加えて、未充足求人や自発的離職が高水準にある点を指摘し、雇用拡大の恩恵が広範に共有されているとの理解を示した。

質疑応答では、先行きのリスクとして、Covid-19の今後の展開に加え、供給制約の長期化を指摘し、特に中国のゼロコロナ政策がサプライチェーンに与える影響に言及したほか、本年中に供給制約は緩和されるが解消はしないとの見方を示した。

物価情勢の評価

同じく冒頭説明でパウエル議長は、需給の不均衡による高インフレが想定以上に長期化しただけでなく、広範に拡大した点を確認し、低所得層に対して食費や住居費、交通費の増加を通じて影響をもたらしている点に懸念を示した。質疑応答では、本年のPCEインフレ率に関する自分自身の見通しを前回(12月)対比で幾分上昇修正したと説明したほか、FOMCとして先行きに関する上方リスクを意識しているとの理解を示した。

政策金利の引上げ

今回(1月)の声明文は、FOMCとして利上げが間近(soon)であると予想するとの表現を明記し、次回(3月)会合での利上げ開始を事実上予告した。もっとも、こうした見方は既に市場で共有されていただけに、質疑応答ではその後の運営が焦点となった。

パウエル議長は、高インフレと広範な雇用拡大の下で強力な金融緩和の継続が不要になった点を確認しつつも、今後の経済動向を現時点で正確に見通すことは不可能である点も確認した。その上で、実際の利上げは経済指標と経済見通しに依存しつつ、謙虚かつ敏捷(humble and nimble)に行う考えを示唆した。

複数の記者がその趣旨を質したのに対し、パウエルl議長は利上げの判断は次回(3月)に行うとの説明を繰り返しつつ、具体的な内容への言及を避けた。一方で、前回の利上げ開始時(2015年末)に比べて物価も雇用もはるかに強く、今回は経済が潜在成長率を大きく上回る推移が想定される点を再三指摘し、前回に比べて早いペースでの利上げを示唆した。

質疑では別の複数記者が利上げに伴う影響を質したが、パウエル議長は、労働市場の強さもインフレ圧力の原因であるとの理解を示し、金融政策が物価と雇用のトレードオフに陥るとの懸念を否定したほか、上記のようにインフレ抑制は低所得層の支援になる点を説明した。

同時に、利上げはあくまでも物価とインフレ期待を2%に安定させることが目的である点を強調し、経済に対するオーバーキルの懸念も否定したほか、今年は財政支出が減少するほか、供給制約も緩和に向かう見通しにある点を再三強調し、利上げだけによってインフレを抑制する訳ではないとの見方も示した。

さらにパウエル議長は、金融市場が前回(12月)のFOMCの結果を踏まえて、利上げや保有資産の縮小を織り込みつつあるとの理解を示し、市場の動きに相応の合理性がある点を示唆した。

他方で、別な記者がFRBの利上げが遅れている(behind the curve)リスクを指摘したのに対しては、パウエル議長はそうした懸念を否定しつつ、今回のように高インフレと力強い雇用の拡大が併存することは前例がない事態である点も付言した。

また、Covid-19の危機に対して金融財政政策が結果的に過剰反応したとの指摘については、適切さは歴史が判断すると回答しつつも、当初はワクチンも存在しない下で経済活動の強力な抑制がなされた点を指摘し、金融財政政策の果断な発動が有効であったとの理解を示した。その上で、パウエル議長は、現在の高インフレが経済の前例のない回復に伴う贅沢な悩み (high class problem)であるとも付言した。

保有資産の縮小

今回(1月)のFOMCは、保有資産の規模を顕著に縮小するためのアプローチを明らかにするべきとの判断に基づき、そのための方針を全会一致で決定して公表した。

具体的には、①政策金利の調整を主たる政策手段として位置づけ、②保有資産縮小の時期やペースはデュアルマンデートの達成に即して判断するが、利上げ開始後に着手、③主として再投資金額の調整により、予見可能な方法で実施、④保有資産を、超過準備の下での効率的で効果的な政策運営に必要な水準に維持、 ⑤長期的には保有資産を国債に限定、⑥保有資産縮小の詳細は金融経済情勢に即して調整、の各点が示された。

質疑応答でパウエル議長は、前回(12月)会合でこのテーマについて導入的な議論を行った後、今回(1月)は主要な原則を議論したと説明した上で、次回(3月)に運営の詳細を議論して公表すると説明した。その上で、前回(QE3後)に比べて、経済活動ははるかに力強い一方で保有資産の規模もはるかに大きい点を確認し、顕著な縮小が必要である点を示唆した。

一方で、前回の経験も含めて、保有資産の縮小に伴う影響を正確に予測することが困難である点も認め、慎重な対応の必要性を示唆したほか、影響の予測が相対的に容易である点が、政策金利の調整を主たる手段と位置付ける理由であると説明した。

別の複数の記者が、保有資産の縮小を開始する具体的な時期や利上げと並走することによる金融経済への影響を質したのに対し、パウエル議長は上記の方針(②)を敷衍するとともに、より詳細な運営は秩序だった形かつ予見可能な形 (orderly and predictable)で進める考えを強調した。

その上でパウエル議長は、保有資産の縮小に関する議論を、少なくとも次回(3月)および次々回(5月)のFOMCで議論すると説明し、少なくとも現時点では、実際の開始が最短で本年央になるとの見方を示唆した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニア研究員

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