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1月FOMCのMinutes-Risk management

2022/02/17

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はじめに

今回(1月)のFOMCでは、物価の先行きに関する上方リスクが指摘された一方、景気の下方リスク要因も指摘され、今後の金融政策の正常化に関する柔軟性の維持が確認された。

経済情勢の評価

FOMCメンバーは米国経済が引続き力強く拡大したことを確認した。その上で、本年第1四半期はオミクロン株の感染拡大によって個人向けサービスを中心に経済活動が抑制されるが、これが早期に収束すれば、家計の健全な資産や賃金上昇、企業のCovid-19への有効な対応などを背景に、本年全体としては強い成長が可能との見方を示した。

このうち企業活動に関しては、供給のボトルネックと人手不足による供給制約が、オミクロン株の感染拡大に伴う労働者の欠勤によって深刻化したことを指摘したほか、数名(some)のメンバーが、コンタクト先の企業が供給制約の想定以上の長期化を懸念している点を報告した。

労働市場については、Covid-19の影響から早期に回復しただけでなく、今や非常に強い状況にあると評価し、雇用者数の増加と失業率の低下、歴史的高水準にある未充足求人と自発的離職などを指摘した。このため、オミクロン株の影響は一時的に止まり、労働参加率も改善に向かうとの見方を示したほか、地区連銀総裁も幅広い産業で人手不足が深刻化している点を報告した。

このため、多く(many)のメンバーは、金融政策の目標である最大雇用に既に達した、ないし非常に近い状況にあると評価した。これに対し、2名(a couple of)のメンバーは、prime-ageの労働者においても労働参加率が以前より低い点や、雇用機会のシフトを通じた雇用者増加の余地が残っている点で、最大雇用には達していないとの見方を示した。

その上でFOMCメンバーは、景気の先行きに不透明性が高い点を確認し、Covid-19の悪化、地政学的緊張の上昇、金融環境の顕著なタイト化といった下方リスクを挙げた。

物価情勢の評価

FOMCメンバーは、需給の不均衡を主因にインフレ率が政策目標を大きく上回る状況が想定以上に継続している点を確認した。加えて、数名(some)のメンバーは、消費需要の強さのため、価格上昇圧力が供給制約と直接関係のない領域に拡大している点を指摘したほか、多く(various)のメンバーが、生産性上昇を超えた賃金上昇や住宅サービス価格の上昇がインフレ率の更なる上昇を招くとの懸念を示した。

また、地区連銀総裁は、労働者の維持ないし新規雇用のために、この数年で最も大きな賃金の引上げを実施ないし計画している点を報告した。このため、企業はコストの広範な上昇に直面しているが、需要も強い中で価格への転嫁は概ね可能との指摘もなされた。もっとも、この点が生活に不可欠な財やサービスへの支出余力に乏しい家計の負担となっている点も併せて確認した。

その上でFOMCメンバーは、物価の先行きについても不透明性が高い上に、リスクが上方に傾いている点を確認した。具体的には、中国の「ゼロコロナ」政策がサプライチェーンの問題を深刻化する可能性や、地政学的リスクによるエネルギー価格の上昇や供給制約の深刻化、Covid-19の悪化、長期のインフレ期待の不安定化といった要因を挙げた。

金融環境の評価

今回(1月)のFOMCでは、執行部説明をもとに金融環境に関する議論も行われた。

数名(a few)のメンバーが広範な資産価格の過大評価を指摘した。これに対し2名(a couple of)のメンバーは、家計や企業の資産の健全さや銀行部門の潤沢な流動性と自己資本、住宅価格の上昇が負債の顕著な増加を伴っていない点などを挙げて、過去の局面に比べて金融安定上の問題は少ないと反論した。このほか、暗号資産やDeFIの急速な拡大の影響や、レバレッジの高いノンバンクのリスク、Prime MMFの流動性リスクに関する脆弱性なども指摘された。

金融政策の運営

FOMCメンバーは、インフレ圧力の上昇と労働市場の拡大を踏まえ、12月会合で決定した通りに資産買入れを3月初で終了する方針を確認した。もっとも、2名(a couple of)のメンバーは、インフレ抑制に対するコミットを示す観点から、より早期の終了を主張した。

利上げに関しても、早期の開始が適当との見方を示したほか、景気見通し、インフレ率、労働需給がいずれも顕著に強いだけに、2015年に比べて早いペースでの利上げが正当化されうるとの見方を示した。もっとも、実際の利上げは金融経済の見通しやリスクに依存する点も確認し、毎回の会合で最適な利上げの見方を更新する考えも示した。

一方、保有資産の削減については、今回(1月)のFOMCで運営方針を決定し、公表したが、議事要旨は決定内容に目立った反論がなかった点を示唆している(実際に全会一致で決定された)。

具体的には、FOMCメンバーは政策金利の調節を主たる政策手段と位置付けることを確認したほか、保有資産の削減の開始時期やペースはデュアルマンデートの達成を目指して設定し、利上げ開始後に着手すべきと判断した。また、具体的なペースは今後の会合で決定するが、現在の金融環境の下では、2017~19年に比べて早いペースでの削減が正当化されうる点に幅広く(generally)合意した。

加えて、保有資産の顕著な削減が適切であるが、超過準備が残存する下で効率的かつ効果的な政策の波及を図る観点で、適切な規模には不確実性が残る点も確認した。さらに、具体的な削減は予見可能な方法かつ主として再投資の調整で行う点に合意したほか、長期的には国債保有に限定する方針を確認するとともに、多く(many)のメンバーが、MBSについては市場売却ないし償還分の国債への転換を行う可能性にも言及した。

FOMCメンバーは、保有資産の削減の細部については、今後の金融経済環境の変化に即した柔軟性を維持することの重要性に合意した。その上で、多く(a number of)のメンバーは、本年後半のどこかの時期(sometime later this year)に開始することが正当化されるとの見方を示した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニア研究員

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